1ドル=76円前後で揉み合っている今の円高水準は、一時的ではあるが、さらに円高に振れると見るアナリストは多い。歴史的に見れば、為替は国家経済全体のファンダメンタルズを反映して変動してきた。現在の円高は日本経済の強さを反映しているというよりも、米国・欧州の経済危機の余波であったり、米国の大統領選に向けた政治相場の流れを受けていたりという側面が強い。
そこで、多くのアナリストはその転換点で1ドル=70円前後という一段の円高にオーバーシュートしてから、その後は長期の円安基調に入るのではないかと見ている。つまり、ここから海外に打って出る最大にして最後のチャンスがやってくるのである。
「超円高で未曾有の海外投資の機会が到来した」と主張するのは作家の橘玲氏だ。
「個人金融資産1400兆円を米ドル換算すれば、1年前(1ドル=83円)は16.8兆ドル、現在(1ドル=76円)は18.4兆ドルと、わずか1年で10%近く増加したことになる。仮にすべて投じれば、世界全体の株式時価総額57.9兆ドルの3分の1を買い占めることができる巨大な資産です」
政府が海外投資の促進策を打ち出せば、政府の税収を増やすことができると主張するのは、経済評論家の廣宮孝信氏だ。
「外国債を買えば税制上の優遇措置を受けられるようにするだけです。個人投資家の金利や分配金に課せられている現在の税率2割を1割に減らす。企業にも同様の減税を行なう。そうして、日本国債に集まった資金が海外投資に回れば、個人資産を増やすだけではなく、政府の税収も増えます」
個人投資家の場合、日本国債の金利は約1%なので、その2割の税収として0.2%分。一方、外国債が金利5%程度とすると1割の税収でも0.5%分になる。しかも、円安に振れた時は為替差益も得られるので、消費は活性化し法人税も所得税も増える。税収が増えれば国債の償還も進むのだから、国債から外国債へのシフトを恐れる必要はない。
「具体的な投資先としては、香港、シンガポール、ロシア、マレーシア、ベネズエラあたりです。安全という観点では、米国債やオーストラリア国債も魅力的です」(同前)
※週刊ポスト2011年9月9日号