兄・長門裕之(享年77)と弟・津川雅彦(71)は、不思議な兄弟仲を見せ続けた。長門さんが亡くなって3か月、めったにインタビューを受けないことで知られる津川氏が、長門さんのラストインタビューを行なった吉田豪氏を聞き手に、兄弟の秘話を語った。ここでは、津川氏のマスコミ不信についてのエピソードを紹介する。
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――もともと誘拐によってマスコミ不信になったっていう噂は聞いてたんですけど……。
津川:いや、マスコミ不信は今さ。誘拐のときは全マスコミが誘拐報道協定を初めて結んで、捜査に協力してくれたし。東京新聞の歪んだ論評を正そうとフジテレビが番組で取り上げて応援してくれた。
――新聞が「自業自得」と津川さんを叩いたんですよね?
津川:それが東京新聞さ。「役者は生まれた子を自分の宣伝のために利用するバカが多いから誘拐される」(※:記事下段に解説あり)とね。ジャーナリストの本分を失い商売のために読者に媚びよった。嫉妬深い読者は「役者を叩けば喜ぶ」。これがマスコミの営業方針なんだとわかったね。それにしても東京新聞の編集長は許せなかった。
――闘ったんですか!
津川:フジテレビの番組でね。スタジオから生中継で東京新聞との電話の模様を中継してくれた。編集長に「新聞は公器だ。誘拐なんて凶悪犯罪は二度と起こらないよう書くのが君たちの務めだろう?
『悪いのは親だ』っていって、犯人予備軍達が『役者の子』なら許されると、懲りずにやったらどう責任とるんだ。役者がアホなのは反論しない。アホだから役者やってんだよ! でも、娘には何の罪もない。下衆な役者の子だから誘拐されて良いって法はない!! ジャーナリストとして恥を知れ」ってね。
編集長は鈍愚に「私は正しい」の一点張りさ。可哀想に謝ったら首だからね。「君は今後、津川雅彦の顔を見る度に、良心が苛まれるぞ」って言ってやったが、翌日1ページ全部読書欄で誘拐特集さ。読者の90%が「役者の子は誘拐されて当然」とアピールしてた。僕の報復措置は、東京新聞読まなくなっただけ。むなしいね。
――そこでそうやって新聞と闘えるのも強いですよ。
津川:良い時代だったんだな。今のジャーナリストは完璧にサラリーマン化しちゃった。今では読者欄の捏造はもちろん、視聴率、支持率も好感度もいい加減。大河(『葵 徳川三代』)で家康を演じたとき、読売新聞の投書欄に「津川が家康を演じながら、さかんに唾を吐いてる。食事時には、いかがなものか」ってのが載った。
NHKは尻の穴小さいから「やめていただけませんか?」って、「爪を噛んで、懐紙に吐くのは史実にある家康の癖だ。脚本家も書いてる」って怒ったら「ウチで書きませんか?」って朝日が言ってくれて。「読売さん!! あれは唾じゃない。家康の史実にもある爪だ。無料といえどもドラマはちゃんと観なさい。更に食事しながらテレビを観るな。行儀が悪い!」って(笑)。
――ダハハハハ! そこから否定なんですか(笑)。
※1974年、津川・朝丘夫妻宅2階から当時生後5か月の長女が誘拐され、身代金500万円が要求された事件。犯人は身代金の受け渡しに銀行のATMを利用、引き出しているところを身柄確保された。
※週刊ポスト2011年9月9日号