世界中の技術の寄せ集めとパクリ技術で急造された中国の高速鉄道が大事故を起こしたように、「安全」だけは一朝一夕でつくれるものではない。開業以来、走行中の事故による乗客の死者ゼロという実績を積み上げている日本の新幹線。ノンフィクション作家の山根一眞氏が中国の高速鉄道と日本の新幹線の違いを指摘する。
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中国は、重要な経済基盤として高速鉄道の建設を猛然と進めてきた。2015年までの営業キロの目標は1万3000km。日本の新幹線の営業キロは山形、秋田両新幹線を含めて約300kmだが、2009年、中国に世界一の座を奪われている。
中国の高速鉄道の営業開始は2007年。目をむくほどの勢いで建設を進めてきたエネルギーには感服するが、高速鉄道はそんな甘いものではない。建物などと異なり、鉄道は完成すれば目標達成というわけにはいかない。日々の「運行」を「安全」に、しかも長期間にわたる「安定」を続けていかねばならないからだ。それがなければ、必ず大きな事故が起きる。
日本の新幹線は1964年10月1日の開業だが(東京~新大阪)、工事にはおよそ5年をかけ、開業までに2年間の試運転を行なっている。開業後も最高速度は時速210kmに抑え、最高時速300kmでの営業運転が実現したのは、開業から実に33年後のことだった(山陽新幹線)。
高速鉄道の技術力は「最高速度」でも競われがちだが、競うべきは「安全運行システム」だ。東京駅の新幹線ホームに立っていて驚くことは、出発して行く列車の間隔の短さだ。東京発着だけでも1日約680本にもなる。こういう運行を47年続けてきたが、走行中の事故による乗客の死者はゼロ。人類史上、これほど安全な乗り物はない。
いったいその安全は誰が、どう支えているのかを知りたい、と取材を開始したのは20年ほど前のことだ。その第一回の取材でお目にかかった日本機械保線社長の深澤義郎さん(当時)は最初の挨拶で、「保線一筋40年の深澤でございます!」とおっしゃった。それは、鉄道、そして新幹線の安全のための仕事を続けてきたことの大きな努力、誇りと自信をまざまざと物語っていた。
新幹線には「夜行」がない。それは東海道新幹線だけでも開業以来、深夜、約3000人が保線作業を行なっているからだった。線路は枕木の下のバラストが列車の走行で少しずつずれるため、レールもデコボコが生じる。深澤さんによれば、保線作業では、毎晩、そのデコボコを5mm以下に補正する工事を行なっているのだという。レールの表面の平滑度も重要で、0.3mm以上のデコボコがあった場合は、砥石を装着した特殊な車両で「鏡面仕上げ」をしているのだという。
※SAPIO 2011年9月14日号