大きな期待とともに今年から処方が始まった認知症の新しい治療薬。約300人の認知症患者を訪問診療する「たかせクリニック」(東京都大田区)の高瀬義昌院長は、10年ぶりの新薬に確かな手応えを感じている。
「ずっと落ち込んでいたのに新しい薬を服用することで活気が出てきて顔色がよくなり、イライラが減った患者さんがいます。言葉がよく出るようになったかたもいますね」
気になる新薬は、のみ薬の『レミニール』(ヤンセンファーマ・武田薬品)と『メマリー』(第一三共)、パッチ剤の『イクセロンパッチ/リバスタッチパッチ』(ノバルティスファーマ/小野薬品。販売元によって商品名が異なる)の計3種類。欧米では10年ほど前から使用されていたが、日本は治験が遅れ、ようやく今年、発売となった。
認知症に詳しい順天堂大学大学院の田平武教授も期待を寄せる。
「認知症のうち最も患者数が多いアルツハイマー型の場合、これまで日本における治療薬は1999年発売の『アリセプト』(エーザイ・ファイザー)のみでした。新薬はそれぞれ特徴があるので、今後は治療の幅が大きく広がるでしょう」
その“実力”がはっきりするのはこれからだが、いまのところ、患者サイドの評判は上々だ。
新薬を処方した田平教授のもとには「頭がすっきりした」という患者からの感想や、「一日ボーッとしていたのに、好きだったテレビ番組を見るようになった」という家族の声が届いている。
現在、日本全国に約250万人の認知症患者がいる。軽度や未発見の高齢者を含めると、その数は600万人といわれる。65才以上の高齢者は約2900万人だから、実に5人にひとりの割合だ。
かつては、認知症が発症すると、「年をとったらボケても仕方ない」とあきらめムード一色だった。しかし、日進月歩の医療とともに状況は一変した。今回の新薬だけでなく、手術で治せる認知症の発見や予防・根治が可能なワクチンの研究開発など、治療法はめまぐるしく発展している。
「高齢化社会の現在、認知症は誰もがなりうる病気です。しかも、いったん認知症になったら家族の負担は増していくばかり。いまのうちから、患者さんも家族も“そのとき”に備えてしっかり知識を得ておくべきです」(高瀬院長)
※女性セブン2011年9月15日号