日立製作所と三菱重工業の経営統合は、日本経済新聞のフライング報道によって両社が否定する事態となった。その背後に何があるのか。大前研一氏が解説する。
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根本的な原因は、日立が三菱グループの体質を十分に理解していなかった点にあると思う。
三菱グループには「三菱金曜会」という三菱系28社の会長、社長の懇親昼食会がある。この会合で「グループ内における文化、福祉、教育等の案件の審議」「三菱の社名を冠称することになった会社の披露、その他グループ内の情報等の報告」などを行なっている。
つまり、三菱重工と日立の経営統合は当然、同会の同意が必要となるが、まだ水面下の交渉段階で報道されてしまったため、グループの長老たちの抵抗に遭った三菱重工としては全面否定するしかなかったのだろう。
もう一つの問題は、三菱重工が陸海空をカバーしているという点である。すなわち、造船、航空機、そして防衛関係をこの統合に含めてもあまり意味がないので、重工側は原動機事業など一部事業だけが対象となる。この辺も調整が難しいところだ。
そして、実は三菱重工という会社は、「オールインワン」の日立と違って「半分」の会社である。たとえば発電所建設を受注すると、日立はすべて自社内で完結するが、三菱重工の場合、自分はボイラーなどの“ドンガラ”を担当し、発電機などは三菱電機が受け持つ。
したがって、もし三菱重工と日立が統合した場合、三菱電機の扱いをどうするのか、という問題が生じる。三菱電機と日立は発電設備はもとより、モーターや各種制御機器、エレベーターなどの電機部門で全面的に競合するからだ。
今回のディールに三菱電機の名は挙がっておらず、そのような問題が未調整だったと推測される。
※週刊ポスト2011年9月16・23日号