浅田次郎原作、佐々部清監督の映画『日輪の遺産』は平成版『ひめゆりの塔』と呼びたい力作。戦争に殉じていった少女たちの「純真」を描いている。作家の川本三郎氏が評する。
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「ひめゆりの塔」は実話だったがこちらはあくまでもフィクション。現代のある女学校に戦争で亡くなった女学生たちの追悼碑が建てられている。碑には彼女たちは空襲の犠牲になったと記されている。
しかし、実はそうではなかったと、生き残った老女性(八千草薫)が、隠された戦争秘話を孫娘(麻生久美子)に語り始める。
昭和二十年。敗色濃い戦争末期、三人の軍人に、厖大な財宝を秘匿せよという秘密の命令が下る。リーダーは堺雅人演じる少佐。
日本軍がフィリピンに進攻した時に「マッカーサーの財宝」と呼ばれるものを奪い、本土に運んだ。軍の一部の上層部しか知らない。敗北が明らかになったいま、戦後の復興に役立たせるためにこの財宝をアメリカ占領軍から隠すことが急務になる。
この財宝秘匿の秘密の作業に二十人の女学生がひそかに動員される。無論、彼女たちには作業の内容は知らされていない。
力仕事である。それになぜ少女たちが駆り出されたのか。彼女たちが「純真」だったから。いわゆる軍国少女で国のために働くことに喜びと誇りを感じている。あくまでも任務に忠実で軍人の命令に素直に従う。いわば軍人から見れば使いやすい。
実際、彼女たちはよく働く。お互いに励まし合い、助け合う。その結果、財宝を入れた重い箱をいくつも、鉄道の小駅から山のなかの洞窟に運び込む作業は無事に終了する。
しかし、終戦を控え、少佐のもとに残酷な命令が下される。秘密保持のために少女たち全員を殺すようにと。
物語はここで一気に緊張を増す。軍人としては当然、上官の命令には従わなければならない。しかし、人間としてけなげな少女たちを殺すことは出来ない。
少佐をはじめ三人の軍人の葛藤が始まる。三人のなかでもいちばん位の低い軍曹は、現場で少女たちと苦労を共にしただけになんとか少女たちを救おうとする思いが強い。演じている中村獅童が叩き上げの兵隊のよさを見せる。
少佐の努力でなんとか命令回避に至った時、思わぬ悲劇が待っている。少女たちが「純真」であるゆえの悲劇が。フィクションだが、あの時代、決してあり得なかった話ではない。
軍国少女を演じる現代の少女俳優たちもけなげさを出している。
※SAPIO 2011年9月14日号