天皇陛下が召し上がる料理に使われる新鮮な肉や野菜、乳製品はすべて、東京から約100キロ、栃木県高根沢町にある「御料牧場」で生産されている。管轄は宮内庁で、中で働く62人の職員は国家公務員。繁忙期には非常勤職員を10人程度雇用するという。
そんな「天皇家の台所」御料牧場も東日本大震災による被害を受けていた。
「震災の影響で牛乳の生産ラインが損壊し、ストップしていました。しかし、8月には復旧して、今は従来通りの生産を再開しています」(御料牧場関係者)
その開設は明治時代にさかのぼる。内務卿だった大久保利通の発案で最初は千葉県に作られ、新東京国際空港建設に伴って、現在の場所に移転した。広さはおよそ252ヘクタール(東京ドーム約54個分)。
天皇家の食卓を支える大切な場所だけに、一般の人は立入禁止。周辺のいたるところに『関係者以外立ち入り禁止』『駐停車禁止 本道路以外の敷地内立ち入り禁止』の立て看板が設置されている。ここで作られているものは全て、天皇家に安全・安心なものを届けるため、細心の注意を払った食材ばかりだ。
「牛は乳牛のみ飼育していて、ホルスタイン種が搾乳牛7頭を含む15頭、ジャージー種が搾乳牛3頭を含む11頭います。その乳から、牛乳、バター、生クリーム、ヨーグルト、チーズ、そしてカルグルトを生産しています」(宮内庁総務課報道室)
牛乳は味、栄養を損なわないため、63度で30分間、低温殺菌をした“特製牛乳”である。また、カルグルトとは、昭和天皇がことのほかお気に入りだった乳酸飲料のこと。脱脂乳を濃縮したものを殺菌し、乳酸菌を加えて発酵させ、その後、香料と砂糖シロップを加えて攪拌して製造している。昭和天皇は水で2倍に薄めて飲まれたという。たんぱく質とカルシウムが豊富で、サワーの味がするそうだ。
東京家政大学教授で栄養学が専門の長尾慶子教授はカルグルトについて次のように指摘する。
「たんぱく質やカルシウムが吸収されやすくなる他、乳酸菌が腸に届くと、有用菌が増えて腸内環境がよくなり食べ物の消化吸収の促進を促します」
ほかに飼われているのは、約90頭の豚、約450頭の羊、約1400羽の鶏や雉で、いずれもストレスを与えない飼育管理を行なっているという。
「牛は常に清潔に保つため1日2回シャワーを浴びている。豚も暑い日はシャワーを浴び、ストレスなく育つので、ここで作られたハムやソーセージは絶品。鶏も平飼いで飼育され、十分な運動ができる環境になっている」(宮内庁関係者)
また、この牧場の羊肉を使ったジンギスカンは、「宗教上の理由で牛や豚が食べられない人でも食べられる」(宮内庁関係者)という理由で、毎年春と秋に催される園遊会や宮中晩餐会の名物料理になっている。
※週刊ポスト2011年9月16・23日号