2009年の政権交代以降、鳩山由紀夫氏と菅直人氏は、人気取りの国内政治に忙しく、外交に決して熱心ではなかった。普天間問題はこじれにこじれ、米国が日本の参加を強く希望したTPPも一旦は「やる」と言いながらも、結局放置し、日米同盟は毀損された。まさに民主党外交の失策ともいえそうだが、外交上の失策は東日本大震災の際にも存在したと指摘するのは、ジャーナリストの櫻井よしこ氏だ。
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菅内閣は懸命に原発対応をしてきたといいますが、実際に行なったのは東電への責任のなすりつけだけでした。
この間に米国が「トモダチ作戦」を発動して懸命に日本を助けてくれました。同作戦を通して、日米両国は実戦さながらの共同作戦を展開し、日米安保体制は事実上、中身を伴った形で深化しました。
また、被災地の人々をはじめ、日本国民のほとんどが、米軍の支援と協力に感銘を受け、日米安保条約の必要性と重要性に気づいたと思います。
米国がこのように真剣に日本を助けようと考え、大規模作戦を展開することになったきっかけは、民主党の説明では、震災から6日目の3月17日、自衛隊のヘリが福島第一原発3号機の真上から注水するのを見て、自衛隊は決死の覚悟だ、それなら助けようと考えたからだといわれました。しかし、事実はまったく反対でした。
「沖縄はゆすりの名人で怠慢」などと発言したと報道され、米国務省日本部長を更迭されたケビン・メア氏は『決断できない日本』(文春新書)のなかで、米国政府が危機感を高めた大きなきっかけは、3月16日の天皇陛下のお言葉だったことを明かしています。
陛下がお言葉を発し、「原子力発電所の状況が予断を許さぬものであることを深く案じ、関係者の尽力により、事態のさらなる悪化が回避されることを切に願っています」と述べられた。それを聞いて、米政府は日本が直面する危機の深さを実感したそうです。
この時点では、米政府は日本政府から原発事故の情報を何も伝えられていませんでした。米国側は菅政権が情報を隠していると、当初考えましたが、実際は日本政府自身が実態を把握していなかったために、伝えるべき情報を何も持っていなかったのです。
陛下のお言葉の翌日、自衛隊のヘリが福島第一原発3号機に注水したときには、〈日本という大きな国家がなし得ることがヘリ一機による放水に過ぎなかったことに米政府は絶望的な気分さえ味わった〉と書いています。
このままでは同盟国である日本が壊滅し、米国にとっても戦略に関わる大きな危機だということで真剣に作戦に乗り出したのが真相だったというのです。
※週刊ポスト2011年9月16・23日号