日立製作所と三菱重工業の経営統合は、日本経済新聞のフライング報道によって両社が否定する事態となった。はたしてこの件、今後どう推移するのか。大前研一氏が解説する。
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すでに三菱重工と日立は水力発電部門など複数の事業で統合・協力関係にある。しかも両社が統合すると、原子炉分野は三菱重工のPWR(加圧水型原子炉)と日立のBWR(沸騰水型原子炉)の両技術を持ったオールマイティになる。
さらに、三菱は仏アレバと、日立は米GE(ゼネラル・エレクトリック)と提携しているので、世界の原発市場は三菱重工・アレバ&日立・GE連合と東芝・WH(ウェスチングハウス)の2社寡占状態となる。
原発分野だけでも大きなメリットを享受できるので、この経営統合交渉は今回の騒動で一服しても破談とはならず、事業統合話の過程で、再び前に進む可能性が意外に高いと私はみている。
そもそも日立と三菱重工の統合話は遅すぎたくらいだ。日本の場合、大企業の合従連衡はまだ国内勢同士の第一フェーズで、世界に大きく後れを取っている。世界はとっくに第二フェーズの国境を越えた「グローバル・メガマージャー時代」に突入しているのだ。
たとえば製鉄業界では、2006年にヨーロッパのアルセロールとインドのミタル・スチールが経営統合して世界最大のアルセロール・ミタルが誕生した。一方、かつて世界一だった日本国内首位の新日本製鐵は、今や粗鋼生産量でアルセロール・ミタルに3倍近い差をつけられ、河北鋼鉄集団などの中国勢や韓国のポスコにも抜かれて世界6位に転落している。
危機感を持った新日鐵は、国内3位の住友金属工業と12年10月をメドに経営統合する予定となった。この統合が実現すれば、粗鋼生産量で世界2位となるが、これから世界で戦っていくためには、国内2位のJFEスチールや海外のメジャーと合併してもよいくらいだ。
※週刊ポスト2011年9月16・23日号