小さな体で世界制覇を果たした女子サッカーなでしこジャパン。日本人の肉体的資質の弱点はサッカーだけに限らない。だがその弱点を克服して工夫と努力で世界の頂点に立とうとしているアスリートたちがいる。なでしこジャパンに次いで世界一を狙える日本のスポーツは何か。スポーツライターの折山淑美氏はバドミントンとフェンシングだと指摘する。
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記録との闘いではなく相手との対戦競技の場合、強くなるために最も必要なのが、よりハイレベルな戦いをいかに多く経験しているかということだ。
アテネ五輪以降、招聘した外国人コーチの力を借りながら、世界のトップと戦う機会を増やすことで実績を上げているのがフェンシングとバドミントンだ。
両競技ともマイナーであったが故に、代表合宿も世界選手権の直前に数日間やる程度で、ナショナルチーム自体が機能していなかった。
現役時代には五輪や世界選手権の優勝経験もあり、“ダブルスの神様”とまで称されたバドミントンの朴柱奉(韓国)は、合宿を充実させ、出場する試合もそれまでとは違ってすべてトップレベルの大会のみにした。
その改革が、11人が出場して1勝9敗だった2004年アテネ五輪の成績を、2008年北京では女子ダブルス末綱聡子・前田美順ペアの4位を筆頭に、男女ダブルスでそれぞれ5位と男女シングルスベスト16まで躍進させた。
一方、競技者としてもコーチとしても実績がなかったフェンシングのオレグ・マチェイチュク(ウクライナ)は、直接指導する選手の成績を飛躍的に上げることで、自然に選手が集まり、ナショナルチームとして練習できる環境をつくった。
そして北京五輪前には協会にフルーレ(「突き」だけを用いる競技)に焦点を絞った500日合宿実施に踏み切らせ、太田雄貴の銀メダル獲得に至ったが、それ以前にも世界ジュニアや、年齢区分が15・16歳の世界カデの男子フルーレ2名が優勝するという実績を残している。
朴とマチェイチュクが取り組んだのは、選手が持っていた外国人選手へのコンプレックスの払拭と、勝つための戦術を事細かに教え込むことだった。さらに対戦中に相手の癖やスタイルを見抜く眼を鍛えることと、想像力を駆使して戦う意識を持たせること。
選手たちのそんな意識も、好成績に終わった北京を経て飛躍的に向上し、真の戦う集団に変貌している。
その結果バドミントンでは100年の歴史を持つ全英オープンで男女シングルスで2位になった他、最高峰のスーパーシリーズでも優勝者を出し、特に女子ダブルスでは世界ランキング2位、4位、6位を占めるまでに。
一方フェンシングは、ロンドン五輪での太田のメダル獲得のみならず、現在世界ランキング3位の男子フルーレ団体でも、ロンドンで頂点を狙える位置にまでなっている。
また今世界に肉薄している卓球も、中学生時代から世界の大会へ派遣したり、ヨーロッパや中国のプロリーグに留学させたりした取り組みが成果を出している。
今年、女子サッカーワールドカップで世界一を成し遂げたなでしこジャパン。その勝因の第1は、監督が戦うためのコンセプトを明確にし、相手を徹底的に研究したこと。そして選手もそれを信じて最後まで戦い抜いたことにある。なにより日本女性の「諦めない心」が日本に金メダルをもたらした。
身体の大きさや身体能力だけが絶対ではないこれらの対戦競技。発想を新たにし、実戦を積み重ねながら頭脳や想像力を鍛えることで、今や世界へ肉薄してきたのだ。
※SAPIO 2011年9月14日号