ロンドン五輪の出場権を順当に獲得した「なでしこジャパン」。とはいえ、キャプテンの澤穂希選手ばかりが注目を集め、「個々のなでしこ」については、なかなかその素顔が伝わってこない。そこで、注目の新刊『なでしこジャパン栄光への軌跡 世界一のあきらめない心』を上梓したスポーツライターの江橋よしのり氏が、世界屈指の技巧派MF、宮間あや選手のエピソードを紹介する。
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宮間あや選手の名前が世界の女子サッカー界に轟いたのは、4年前の女子ワールドカップ中国大会の時です。いきなり初戦のイングランド戦でFKを2発叩きこみました。今回のドイツ大会でも初戦のニュージーランド戦で決勝点となるFKを決めています。また、米国との決勝PK戦では、もっとも重圧がかかる1本目を見事に成功させています。
なでしこジャパンでは、キャプテン・澤穂希選手が圧倒的に注目されていますが、目立たないところで仲間の心を1つにまとめているのは、実はこの宮間選手なんです。ロンドン五輪予選では、中国が豪州に負けて、なでしこジャパンの本大会出場が決まりました。その瞬間、宮間選手はホテルで戦況を見守っていたなでしこジャパン各選手の部屋をすべてまわり、全選手とハグをして喜びをわかちあったそうです。仲間思いな宮間選手らしいエピソードだと思います。
プレースタイルを見ても、世界屈指のプレースキッカーであり、1本のパスで試合を決定づける宮間選手のファンは多いですね。
彼女は、「朝、目が覚めて、その日一番やりたい事がサッカーじゃなかったら、私はその日に引退します」と言うほど、人生の中心には、常にサッカーがあります。
中学・高校時代は『読売ベレーザ』(当時)に所属していて、ビーチまで徒歩30秒という千葉・九十九里浜の実家から練習場まで毎日往復7時間をかけて通っていたんです。幕張総合高校2年の時、さすがに「寝る時間がない」という理由でやむなく退団したんですが、その次の日には、高校の男子サッカー部の練習に参加していたそうです。
誰よりも負けず嫌いでいて誰よりも謙虚。自分より他人を思いやる気持ちが非常に強い性格の選手です。極めて重大な局面でのFKやPKを任され、「プレッシャーを感じないのか?」と聞いた時の彼女の答えが象徴的です。
「自身の見栄や私欲を考えたらプレッシャーに潰されます。でもチームのみんなの思い、日本で応援してくれるみんなの思いをボールに送るんだって考えてるから、大丈夫なんです」(宮間選手)