9月10日に行なわれた楽天イーグルス対日本ハムファイターズの田中将大投手と斎藤佑樹投手の“ライバル”対決は、楽天が4-1で勝利。田中は最終回に押し出しで1点を取られたものの、圧巻のピッチングを見せた。斎藤もプロ入りして初めての完投をするなど健闘した。この二人について、ノンフィクションライターの神田憲行氏がレポートする。
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「あまりストレートに言うと、変なこと書かれちゃうからなー!」
記者会見の最後、おどけた田中将大の言葉が“ライバル”対決をどう感じていたか、物語っていた。田中は斎藤佑樹をライバルなどとは思っていない。
「ずっと比較されてて嫌な気もしたときがあったと思うんだけど……」という記者の質問に、
「ハイ! ハイ!」
と笑顔で頷き、「お互い切磋琢磨してきたという気持ちは?」と聞かれて、「正直ないです。(大学とプロと)住む世界が違うので、そこは違うと思います。面白くない(コメント)と思いますが、ないですね」と、断言した。
プロで四年間、ローテーション投手として白星を積み重ねてきた自負が、大学上がりの新人投手と比べられることを拒否した。斎藤投手関係の質問で記者会見が終わろうとした寸前、冒頭の台詞が飛び出したのだ。
仲が悪いというわけではないが、もともと性格的に「水と油」といわれる。松坂大輔はプロに進んだ後も、アマチュアに進んだ高校時代の対戦相手とメールのやりとりをして励まし続けたが、二人の間でそのような交遊は聞かない。
だが、「決勝戦の引き分け再試合」という伝説的戦いが、二人を因縁づけて捉える枠になってしまった。
田中はこの日の投球でメディアが煽る“ライバル”対決という枠にケリを付けたかったのだろう。斎藤に見せつけるのはもちろん、“ライバル”と煽るメディア、観客に対しても「これでもまだ二人を比べますか?」といわんかごときの圧倒的なピッチングだった。最終回に押し出し四球で一点を失うと、悔しさのあまりマウンドにしゃがみこんだ。
「なんか気持ち悪いですねー。九回に点を取られるのは嫌ですねー! 最終回に締まらないのは僕らしいかな。これは一生治らないですね」
それは完封を逃した悔しさだけでなく、完璧に斎藤を圧倒するチャンスを逸した嘆きだ。
一方の斎藤の試合後のコメントの、「この差は大きくない。全く追いつけないものではないと思う」とは、田中の「もうお前はライバルじゃない」というメッセージを受けとった、精一杯の反論だろう。球威も変化球のキレも「差は大きくない」といえないと、誰よりも本人がわかっているはずだから。
とはいえ、“ライバル”対決の経済効果は抜群だった。チケットは一週間前に完売し、観客数2万809人はオールスター戦を含めて今季3番目の入り。チケットやグッズなど全てを含んだ売り上げはこの日だけで1億円を突破した。
「いつもは6~7千万円程度。(地上波中継したフジテレビなどの)放映権がボーナスになりました」(楽天野球団関係者)
楽天が今回手にした放映権料は衛星中継の7~8倍、巨人戦に匹敵する金額だった。
今季は星野効果で年間シート購入が過去最高となるも、チームが下位を低迷したため観客数が伸び悩んでいた。試合当日は絶好の野球日よりの快晴、まさに球団にとって干天の慈雨になった。楽天だけでなく日本ハムも、改めて二人の対決がどれだけのカネを生むか注目しただろう。
田中がいかに抗おうとも、いろんな「大人の事情」をまといながら、二人の“ライバル”対決はこれからも続けられるに違いない。