毎年、9月中旬の中国では、世相を反映したさまざまな「事件」が起こるという。その主役は「月餅」。ジャーナリストの富坂聰氏が解説する。
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9月中旬の中国といえば“中秋節”(今年は12日から3日間)である。読んで字のごとく名月を愛でる行事だが、することといえば家族が集って食事をすることと、そして親しい人に月餅を贈ることだ。この月餅を巡っては、毎年中国の世相を反映したさまざまな問題が持ち上がる。
まず最もポピュラーなものには、中国語で「偽劣産品」と呼ばれるニセモノ・劣悪商品の問題がある。昨年の北京では、大学生が食べている途中で、なかに大量の頭髪が混じっているのが発見されて騒ぎになった産地偽装の月餅が、なんと4万8千個も押収されたという事件が起きているのだ。
日本で月餅といえばアンコが主流だが、中国ではアンコはもちろんクルミなどの木の実から卵、肉などさまざまなものが詰まっているため、実際のところ「何が入っているか分からない」のである。それだけにルートの不明なモノを食べるのには抵抗を感じるのだ。
月餅を巡る“偽劣問題”は今年も必ず問題になるだろうが、現在進行形のことなので現状で報告することはできない。ただ今年、月餅巡る最大の話題といえば何といっても予約券の問題だろう。予約券とは競争率が高い老舗月餅ブランドを購入するための整理券(先払い)だが、これに今年はダフ屋が群がって大変なことになっているからだ。
この予約券は、人々が奪い合ってプレミアがつくケースと逆に値が下がるケースに分かれるが、問題は後者だ。
値が下がるパターンは、企業が一括で買い入れるなどして従業員に予約券を配ったものが、実際には月餅とは交換されずに換金されてしまうことで起きる。要するに「月餅より金」という昨今の若者事情を反映した現象なのだが、予約券を売るときには日本の金券ショップと同じく元々の値段より割り引かれる。
実は、この予約券買い戻しの過程で、月餅業者が自ら買い戻しているのではないか? との疑惑が持ち上がっているのだ。つまり業者は正規の値段で券を売って、それを割り引いて回収して廃棄すれば、品物は造らなくとも儲かると言うシステムだ。だから、予約券は実際の品物よりも大量にばら撒かれたというのだ。実に、「地下経済」と表経済が一体となっている中国らしいエピソードといえないだろうか。