竹下正己弁護士の法律相談コーナー。今回は「遺産を、弟の子供ではなく、妻だけに相続させたいのですが」と、以下のような質問が寄せられた。
【質問】
私たち夫婦には子供はいませんが、私の弟には2人います。私に万一のことがあった場合、私の遺産は妻だけが相続できるようにしたいのですが、どのようにすればいいでしょうか。妻からは早く遺言書を書いておくようにといわれていますが、それに際して、大事な点を教えてください。
【回答】
現状では、奥さんが4分の3、弟が4分の1というのが相続の割合になります。もし弟が死んでも、その子、あなたにとっては甥・姪に当たる者までは相続権があります(代襲相続)。甥姪の子供に相続する資格はありませんが、あなたの死亡時に弟や甥姪が生存している限り、4分の1は彼らに相続されます。奥さんに全遺産を相続させたいのであれば、遺言でそのように決める必要があります。
遺言で気になるのは遺留分です。遺留分は、遺言で自由にできない相続人の権利です。例えば妻子であれば、法定相続分の半分。仮に妻のほかに子供1人の場合、子供の法定相続分2分の1の半分である4分の1が遺留分になります。
そこで、妻に全部を譲る遺言をすると、子供は4分の1の範囲で遺言の効力を否定できます。しかし兄弟には遺留分の権利は認められていません。そこで奥さんに単独で譲ることを内容とする遺言を作れば、一応安心です。「一応」というのは、遺言の効力を争われない限り、という限定が付くからです。遺言は全文自筆で書くことで作ることができます。
しかし、自筆であることが効力の前提ですから、本当に本人が書いたかを争われると、奥さんがあなたの自筆であることを証明する必要が出てきます。また、遺言者が高齢者の場合、認知症がなかったか、真意による遺言であるのかなどと問題にされることもあります。こうしたことから万全とはいえないのです。また自筆遺言証書は、死後、家庭裁判所の検認手続を受ける必要があります。
そこで、公証人に遺言内容を聞きとってもらって遺言書にする、公正証書遺言をお勧めします。公証人が遺言者に面談して意思を確認しますから、自筆遺言の問題はあらかた解消します。最寄りの公証役場で相談してください。
※週刊ポスト2011年9月16・23日号