インフレ懸念が続く中国だが、その経済成長は目をみはるものがある。なかでも「飲食」業界は有望といわれ、この10年以上にわたって2ケタ成長が続いており、昨年の業界全体の売上は18%増の1兆7636億元(約21.4兆円)、今年は2.1兆元(約25.5兆円)に達すると見られている。その有望な市場を前に国内企業が勢力拡大を狙うのはもちろん、中国政府としても自国産業の発展につなげたいところだろう。
では、この巨大な潜在成長力を秘める中国飲食業界で最も儲かっている企業はどこかというと、実は中国企業ではなく、米国企業だということをご存じだろうか。
最近ではITの分野でグーグルが中国から撤退した件は記憶に新しいが、飲食業界でもコカ・コーラによる中国の果汁飲料最大手・匯源果汁への買収案が中国商務部に却下されるなど、こと米国企業に対する風当たりは強い。国内企業からみれば天敵といえるだろう。
ところが、中国料理協会による2010年の中国飲食企業トップ10をみると、ずらりと中国企業が名を連ねるなか、1位は「ヤムブランズ」となっている。この社名、一見なじみが薄いが、実はケンタッキーフライドチキンやピザハットなどのファストフードチェーンを世界中で展開する、れっきとした米国企業なのだ。中国経済の動向に詳しい戸松信博氏(グローバルリンクアドバイザーズ代表)が解説する。
「同社は世界で約3万8000店を展開し、そのうち中国では約4000店に過ぎませんが、利益ベースでみると全体の約43%は中国事業が占めています。2015年には6500店舗以上まで拡大する見込みで、さらなる出店攻勢を仕掛けています」
同社の強みはこれだけではない、と戸松氏が続ける。
「すでに業界2位で火鍋専門店をチェーン展開する『小肥羊』の約27%の株式を保有しており、今後はその比率を引き上げ、完全子会社化する計画もあるため、ますます拡大する見通しです。
外資による買収案は当局の審査・許可を得る必要がありますが、仮にこの完全買収がかなわなかったとしても、米国の優れた経営センスと資金力を武器に中国飲食市場を席巻する可能性は高い。さらにいえば、米国が進めているドル安政策と、最近緩やかに進んでいる人民元高が同社の業績を一層加速させることになります。実際、同社の株価も右肩上がりで、2000年からの10年間で株価は10倍、直近でも2009年からの1年半で株価は約2倍になっているほどです」
ちなみにヤムブランズ社は米国に上場しているため、日本から同社株に投資することも可能。中国飲食業界の一番おいしいところを持っていく米国企業の“うまみ”を味わうこともできるかもしれない。