元仙台放送アナウンサーで震災直後の取材にあたり、現在は東京でフリーアナとして活躍する早坂まき子氏が考える連載「震災のあと」。最終回は、日常を回復していく被災者たちの複雑な想いについて触れる。
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「日常を取り戻す」そのことの大切さを、被災地支援番組を担当していますと日々感じます。「被災地の方々も早く日常に近づく生活をして安心したいと考える方が多い」と、被災地に行ったボランティア団体の方をインタビューすると聞きますし、私が宮城県の知人と電話をしてもよく聞きます。ですが、それとは矛盾する感情に悩まされている被災地の現状もあります。
例えば、地元のお祭りを開催するか否かです。宮城県名取市では、例年開催されている夏祭りを開催する地区と開催しない地区がありました。それは各地区での話し合いで決められた結果ですが「震災後だからこそ、祭りを開催して元気を出そう」という町と、家を失い避難している方が多い地区などでは「町の状態を考えると今年は自粛し、開催するべきではない」という考えの町があり、同じ被災地の方でもそれぞれ思いが異なる状態です。
これは名取市だけではなくて、東日本の特に沿岸部でボランティアをした方からもよく聞くことで珍しい話ではありません。東北三大祭りの「仙台七夕まつり」は鎮魂と復興の願いを込めて開催の運びとなりました。しかし町単位のお祭り開催となると資金面や運営に関われる人数も限られてくるからという理由もありますが、被災地に住む方の中には「お祭りはまだ不謹慎だ」と考える人がいらっしゃるのも事実ということです。
このような日常を取り戻すうえでは、複雑な心境が時には対立してしまうことも「仕方がないね」と考えざるを得ない現実に直面する機会が多いと話す被災者の声を、私は9月になってよく聞きます。
震災直後、私が取材していたご遺体安置所となっていた利府町の施設も9月からは震災前の姿を取り戻し、ライブやイベント会場として再開しました。さらに気仙沼市の唐桑体育館は、震災直後ご遺体安置所となっていて、現在津波被害にあった場所から運び出されたアルバム写真や家財など「思い出の品」を保管する場所となっています。本来の体育館としての使用にいつ頃から切り替えるかを現在検討中とのことです。
被災地では、着実に日常を取り戻す歩みが進められています。その歩みが早いか遅いか。正解はありません。町のお祭りを開催するか否か。震災後あくまで緊急時として対応した施設が、本来の使用状態にいつ戻すのか。つまり「日常に戻す」的確な時期がいつなのかは、人によって捉え方が千差万別です。
いつか悲しみは日常で上書きされなくてはならないはずだし、そうあるべきです。ただその裏にある人々の複雑な思いは、全ての日常へ戻る復興の過程に潜んでいるものなのではないでしょうか。
【プロフィール】
早坂まき子。元仙台放送アナウンサー。六年在籍した仙台放送時代に東日本大震災に遭う。現在フリーアナウンサーとしてJ:COM被災地支援番組『週刊ボランティア情報 みんなのチカラ』司会担当。個人的な被災地支援活動もしながら、長期的にどのような支援が出来るか模索中。