ロンドン五輪の出場権を順当に獲得した「なでしこジャパン」。キャプテンの澤穂希選手が多くの注目を集めるが、「なでしこ」は実に個性豊かな女性たちの集団である。ここでは、注目の新刊『なでしこジャパン栄光への軌跡 世界一のあきらめない心』を上梓したスポーツライターの江橋よしのり氏が、“美女ストライカー”と評判の丸山桂里奈(かりな)選手(ジェフ千葉レディース)のエピソードを紹介する。
* * *
W杯ドイツ戦で丸山選手が決めた決勝ゴールは、日本の女子サッカーの歴史を変えた貴重な一撃でした。強引で難易度も高い「度胸満点」なシュートだったので、昔から彼女の性格を知る私や同業者は「あの桂里奈が!」と現地で驚いたものです。
丸山選手は2003年アメリカW杯で世界大会にデビューしましたが、当時はまだ大学生で、普段の練習は土のグラウンドで行なっていました。W杯や、翌年のアテネ五輪という大舞台では、対戦相手に気迫で圧倒されたり、チーム内では大先輩たちに気を遣ったりと、萎縮する場面も見られました。丸山選手はいわば、“ガラスのエース”だったんです。
ところが、2008年に佐々木則夫監督が就任した頃から、丸山選手はのびのびと自信をもってプレーするようになりました。その秘密を本人に聞くと、意外な答えが返ってきました。「いいプレーができるのは、安藤梢(デュイスブルク)と同じ部屋だから」と、彼女は真顔で主張するのです。
なでしこジャパンは大会中、宿泊先では1人ではなく2人部屋が基本です。気を遣いすぎる性格の丸山選手は、同学年で10代の頃から仲良しという安藤がそばにいるだけで、「リラックスできるし、自分のことに集中できる」。2人が初めて同部屋になった2008年の東アジア選手権で、なでしこジャパンは国際大会初優勝を果たしました。その後も丸山選手がスーパーゴールを決める時は、決まって安藤選手と同部屋でした。もちろん、W杯でもコンビは継続されました。
その勢いは、ロンドン五輪予選でも続くはずでした。「また安藤と同じ部屋なんですよー!」と、中国で嬉しそうに語っていた丸山選手だったのですが、その部屋ではなんと、毎夜、怪奇現象が起きてしまったのです。
撮影■金子悟
※続きは9月15日16時に掲載