福島第一原発から西へ約50km――標高1700mの安達太良山のすそ野、福島県大玉村に仮設住宅630戸が整然と立ち並ぶ。この仮設団地に3か月前から入居を始めたのは、原発20km圏内に位置する富岡町の避難者たちだ。
そのなかに、6月24日から仮設暮らしを始めた今井美知恵さん(53才)がいる。今井さん一家は、建設会社に勤める夫の浩二さん(57才)、中学3年生の里美さん(15才)、中学1年生の雄大くん(13才)の4人家族。ペットの小型犬2匹も一緒だ。仮設の間取りは、4畳半2間に、バス、トイレ、キッチンがついた「2K」。その仮設を2戸借りて、2人ずつに分かれて就寝している。
美知恵さんは毎朝4時半に起きると、まだ寝ている子供たちを起こさぬよう気を使いながら、一家の食事の支度をする。
「夫の会社は浪江町にあったんですが、そこも原発20km圏内にあって、南相馬市に事務所を移したんです。ここからは車で片道1時間半かかるので、夫は午前6時過ぎに出勤しています」(美知恵さん)
以前より起床が1~2時間も早くなったが、それでも美知恵さんは「仕事があるだけいい」と気丈に振る舞う。
震災以前に住んでいた富岡町の自宅は6LDKの一戸建てだった。システムキッチンに食器乾燥機が付き、広々としたスペースで調理した。しかし、いま台所には冷蔵庫と洗濯機用以外で自由に使えるコンセントはひとつしかなく、炊飯器や電子レンジを使う度にプラグを抜き差しする。
だからごはんは保温しておけない。スペースもないので、シンクの上にまな板を置き、グラグラしながら、食材を切る。 「狭いので、1品つくっているともう調理スペースがなくなるんですよ(苦笑)。だいぶ慣れましたけど、同時に調理できないから、やっぱり時間がかかります」(美知恵さん)
この日の朝食は、ご飯、みそ汁と昨晩の残りもののサラダや煮物だった。支度を終えた午前6時半ころ、子供たちが起床。その40分後には親子3人揃って家を出る。中学校までは5kmほどあるうえ、坂道が多いため、美知恵さんが車で送り迎えしているのだ。家に帰った後も、美知恵さんは休むことなく洗濯、掃除などの家事に忙しく働く。
「体を動かすことで、あまり考えないようにしたいんです。やることがないと、お金のことや将来のことを考えてしまって、不安になりますからね」
※女性セブン2011年9月29日・10月6日号