現役官僚として改革提言を続けベストセラーを連発する古賀茂明氏と、SAPIOの人気連載「おバカ規制の責任者出てこい!」の著者・原英史氏は経済産業省の先輩後輩にあたり、自民党政権時代には国家公務員制度改革推進本部でともに「霞が関改革」に取り組んだ。船出した野田新政権は「官僚の壁」を越えて改革を進めることができるのか、同志2人が議論した。
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――野田佳彦首相の誕生をどう受け止めているか。
古賀:「霞が関は喜んでいるようですね。なんといってもドジョウですから」
――ドジョウ内閣は役所にとってありがたい?
古賀:「経産省で言えば、どちらかと言えば改革を志向していた時代から、デフレ下のこの20年近くは、『かわいそうな中小企業を守りましょう』などと言って企業保護政策の強化に転換してきた。その時に使われたのが、『地に足がついた政策をやりなさい』という言葉です。私はこの後ろ向きな政策を『地べた主義』と呼んでいるのですが、ドジョウは地べたどころか、水の下の泥の中ですからね(苦笑)」
原:「基本理念は『和と中庸』だから、思い切ったことはやりませんということですよね。彼が野党時代に書いたものを読むと、公務員制度改革や規制改革、無駄遣いをしている特別会計は全部なくしてしまえとか、相当思い切ったことを言っていた。しかし、財務大臣になると、『無駄遣いを削ってもたいして財源は出てこないから増税しかない』と全部撤回してしまった。役所にとっては最善の結果でしょう。特に役所の幹部クラスは、20年くらい前の、コンセンサスと根回し重視で、役所の活躍の機会の増える“古き良き時代”に戻れるからありがたいと受け止めている」
古賀:「野田さんの代表選の演説は心に訴えたと言われていますが、私は逆に気になった。『私は金魚じゃなくて、ドジョウだ』という言葉を、世界の人が聞いたら奇妙に思う。どう訳したのか非常に興味がある。あの意味は前任者の菅さんや鳩山さんが思いつきで政策的にぴょんぴょん跳ねて、パフォーマンスをやったことに対するアンチテーゼだった。
考えてみると、民主党はこれまでずっとアンチテーゼなんです。『自民党政治じゃダメだから民主党』『官僚主導じゃダメだから政治主導』だとか、今度もパフォーマンスや人気取りじゃダメだから、『地道にドジョウでやります』と。今までを否定するだけで、では否定して何をするのかが全く示されていない。今回も増税だけははっきりしているが、それ以外はないでしょう」
●司会・構成/武冨薫(ジャーナリスト)
※SAPIO2011年10月5日号