「ニュースから学ぶ大人力」、今回のテーマは「紳助報道」です。突然の引退から連日のスキャンダル報道が続く中、コラムニストの石原壮一郎氏が、「島田紳助に対する手のひら返し」に学ぶ大人の距離の取り方を学びます。
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島田紳助さんが、いきなりの芸能界引退を発表したのは、8月23日の夜のこと。いきなりの意外な展開は世間に大きな衝撃を与えました。
まして、いままでいっしょに仕事をした共演者やスタッフ、取材などで交流があったマスコミ関係者にしてみれば、衝撃もひとしお。そのせいか、妙にハイテンションな状態が続いていて、「じつは、こういう人間だった」「じつは、こんなヒドイ目にあった」という情報が、次々と飛び出してきます。これまでの持ち上げっぷりから一転して、まさに「手のひらを返す」という表現がピッタリの状況と言えるでしょう。
芸能界だけでなく、普通の会社でも似たようなことが起きる可能性は大いにあります。強引なやり方で実績を上げ続け、ブイブイ言わせまくっていた上司にスキャンダルが発覚。会社を追われた途端、いろんな人が「じつは、こういう人間だった」「じつは、こんなヒドイ目にあった」と言い出したとします。
同僚たちと悪口に花を咲かせれば、それなりに楽しいし、うわべの連帯感は得られるでしょう。しかし、目先の甘い誘惑に飛びついてしまうのは、大人として浅はか。かといって「手のひら返しはみっともないぜ」「水に落ちた犬に対しては威勢がいいんだな」と苦言を呈するのも、なんせ本当のことだけに、激しい反発を買うのは確実です。
無難なのは「人間って、いろんな面があるんだなあ」「人の評価って、あっという間に変わるんだね」と客観的に語りつつ、「面白いよなあ」という感想でまとめるやり方。あるいは、目の前の同僚たち以上に、極端に手のひらを反して張り切っている別の上司を引き合いに出して、「今、見てていちばん楽しいのは、○○専務だよね」と言ってしまう手もあります。いずれも、いちおう話の輪には入りつつも、傍観者の立場を守っている言い方。ちょっと偉そうな雰囲気は漂いますが、そのぐらいは仕方ありません。
話の流れに関係なく、たとえば「あの人、けっこう音痴だったよね」と唐突にどうでもいい小ネタを繰り出して、周囲に「こいつは放っておこう」と思わせるのも一興。ちなみに紳助さんは、トマトジュースが嫌いだったそうです。自分がペーペーだったら、強気な口調で「これで俺が、社長に一歩近づいたな」と言ってみるのも楽しそうです。
きっと同じ部署のかわいいあの子も、あえて空気を読まない発言をして悪口の輪と距離を取り、大人としての矜持を守ろうとするあなたの真意を感じ取って、胸をキュンとさせてくれるはず。そんな展開を勝手に思い描きながら、甘い誘惑をはねつけましょう。