国内

ボランティアにこそドラッカーのマネジメントが必要な理由

ベストセラー『がんばらない』著者の鎌田實氏は、長野県の諏訪中央病院の名誉院長でもある。チェルノブイリの子供たちへの医療支援に取り組む傍ら、原発の避難対象地域にも通っている鎌田氏が、NPO活動やボランティアにも「経営」が大切だと語る。

* * *
『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』が250万部を超える大ベストセラーになっている。原作は、マンガやアニメ、映画へと広がりを見せ、ちょっとしたドラッカーブームのようである。

いまさら、P.F.ドラッカーでもないだろうと思いつつ、家の書斎で他の本を探していたとき、ドラッカーの『非営利組織の経営』という本に目がとまった。中を開いてみると、アンダーラインが引いてあって、我ながらよく読みこんでいるのである。

「あなたの生涯を、どう割り振るかはあなたの責任である」ここにもアンダーラインがついていた。

僕は55歳で定年より10年早く病院を辞めた。おそらくこの本を読んだことが影響しているのだろうと思う。

退職して、イラク戦争で傷ついた子どもたちを救う活動を始めた。辞めてすぐに、イラクの難民キャンプにも行った。病院長のままでイラクに行き、テロリストに拉致されたら病院に迷惑をかけると思ったからだ。

ドラッカーはまた、範を示せ、と書いている。「リーダーシップは肩書で決めるものではない。範を示すことによって人をリードしなければならない。組織の使命に献身することである」と。僕はJCFと日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)という2つのNPOのために努力してきた。

2つのNPOとも、年間5000万~7000万円の予算で子どもたちを支援し、その経営を成り立たせてきた。役に立つ活動は持続することが大事。持続させるためには経営が大事だ。もちろんドラッカーの『マネジメント』も読んだ。

JCFでは、ジャズの坂田明氏らのCDを3枚プロデュースし、約4万枚、1億円を売り上げた。これはすべて子どもたちの薬代になった。現在は「ドクターかまちゃんの寒天ゼリー」を今年初めから販売、この売り上げは東北の子どもたちの救援に使われる。

非営利組織の経営を成り立たせるために、僕たちはCDを売ったり、チョコレートを売ったり、寒天を作ったり、本を書いたりしている。

ドラッカーは「非営利組織とは企業や政府とは異なる何かをするものである。政府は統制したり、企業は財やサービスを供給する。非営利組織が作る製品は、変革された人間」という。非営利活動に大事なのは、人間が変われるかどうかということである。

僕が公務員を辞めて8年になる。わずかずつではあるが、変革してきているなあと思う。

非営利組織の活動は自由で実におもしろい。ボランティアにマネジメントなんて筋違いだと思う人も多いと思うが、けっしてそうではない。社会貢献は一時的ではなく、持続するために、経営こそが大事なのである。

※週刊ポスト2011年9月30日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

主張が食い違う折田楓社長と斎藤元彦知事(時事通信フォト)
《慶應SFC時代の “一軍女子”素顔》折田楓氏がPR会社を創業するに至った背景「女子アナ友人とプリクラ撮影」「マスコミ志望だった」
NEWSポストセブン
元プロバスケ選手の真美子夫人と交わした自然なグータッチに、アスリート夫妻らしくて素敵という声が殺到した(写真/ロサンゼルス・ドジャース公式Xより)
大谷翔平、MVP獲得で真美子夫人と歓喜のグータッチ 受賞日は“いい夫婦の日”で喜びも倍増
女性セブン
加古川
【獄中肉声・独占入手】加古川女児殺害事件で再逮捕の勝田州彦容疑者「ケータイをいじりながら、一般人のフリをして歩いて」「犯行後には着替えを用意」と明かしていた“手口”
NEWSポストセブン
紅白の
《スケジュールは空けてある》目玉候補に次々と断られる紅白歌合戦、隠し玉に近藤真彦が急浮上 中森明菜と“禁断”の共演はあるのか
女性セブン
騒動の中心になったイギリス人女性(SNSより)
《次は高校の卒業旅行に突撃》「1年間で600人と寝た」オーストラリア人女性(26)が“強制送還”された後にぶちあげた新計画に騒然
NEWSポストセブン
折田氏(本人のinstagramより)と斎藤知事(時事通信)
《折田楓社長のPR会社》「コンペで5年連続優勝」の広島市は「絶対に出来レースではありません」と回答 斎藤知事の仕事だけ「ボランティア」に高まる違和感
NEWSポストセブン
中井貴一
中井貴一、好調『ザ・トラベルナース』の相棒・岡田将生の結婚に手を叩いて大喜び、プライベートでゴルフに行くほどの仲の良さ 撮影時には適度な緊張感も
女性セブン
折田楓氏(本人のinstagramより)
《バーキン、ヴィトンのバッグで話題》PR会社社長・折田楓氏(32)の「愛用のセットアップが品切れ」にメーカーが答えた「意外な回答」
NEWSポストセブン
小沢一郎・衆院議員の目には石破政権がどう映っているのか(本誌撮影)
【小沢一郎氏インタビュー】自民党幹部に伝えた石破政権の宿命「連立をきちんと組まない不安定な政権では有権者に迷惑、短命に終わる」
週刊ポスト
東北楽天イーグルスを退団することを電撃発表し
《楽天退団・田中将大の移籍先を握る》沈黙の年上妻・里田まいの本心「数年前から東京に拠点」自身のブランドも立ち上げ
NEWSポストセブン
妻ではない女性とデートが目撃された岸部一徳
《ショートカット美女とお泊まり》岸部一徳「妻ではない女性」との関係を直撃 語っていた“達観した人生観”「年取れば男も女も皆同じ顔になる」
NEWSポストセブン
再ブレイクを目指すいしだ壱成
《いしだ壱成・独占インタビュー》ダウンタウン・松本人志の“言葉”に涙を流して決意した「役者」での再起
NEWSポストセブン