国内

震災後ベストセラーの震災写真集 4か月で45万部を売り上げ

 震災以後、ベストセラーを記録したのが「震災写真集」である。全国の書店には大手新聞社から刊行された写真集が平積みされたが、特に被災地で需要が高かったのは地元新聞社から出版されたものだった。ノンフィクション作家の稲泉連氏がベストセラー誕生までを報告する。

 * * *
 三月三一日の朝、河北新報出版センターに勤める水戸智子は、鳴り続ける電話の対応に追われていた。

 同社が四月八日に出版する報道写真集『巨大津波が襲った 3・11大震災』の社告を、「河北新報」に掲載したのは前日のことだった。

 発売以来、現在もレジや店の入口近くに必ず平積みにされている本書は、震災後の書店の売り上げを支える報道写真集の中でいち早く発売された一冊だ。よってある程度の問い合わせがあるとは予想していたが、「発売の一週間前からこれほどの反響があるとは思ってもいませんでした」と彼女は言う。

 この日、出社したときには、彼女の働く営業部の電話がすでに鳴り続けていた。受話器をとると、「今朝の新聞を見たのですが……」との声が早速聞こえてきた。その後も予約を求める電話がなりやまず、多くは被災地からのものでもあったそうだ。

 出版センターの電話は二回線しかない。通話中になっても何度もかけ直し、問い合わせを続けている被災地の読者のことを、彼女は思わずにはいられなかった。

「切った先からかかってくるんです。そんな経験は初めてのことでした。結局、取次、新聞の販売店、個人の方への直送と振り分けていくと、初版の三万部は二日で行き先が全て決まってしまいました」

 四月八日の発売後、出版部長の阿部進は水戸とともに車を走らせ、直販を行なう仙台市内の大型書店に本を何度か運び込んだことがある。

 店内は活字を求める人々で混雑し、レジには長い行列ができていた。書店員が棚に並べている横から手を伸ばして写真集を買う客の列を見て、彼は「やっぱり本を出して良かった」と救われた思いがしたと話す。

「発売当初、河北新報はこういう悲惨な写真集を出して金もうけをするのか、という非難の声もあったんです」と編集長役を務めた河北新報メディアセンター長の今野俊宏が言う。

「ただ、あの早い段階で写真集を出すことになった背景には、被災地における情報の少なさがありました。準備に取り掛かったのは一四日です。そのときはテレビもネットも見ることができず、新聞だけが貪るように読まれていた。被災地にいる人たちに、何が起きたのか、何が起きているのかを知って欲しい。それが第一の目的でしたから、一刻も早く出さなければならないと考えたんですね」

 三・一一の震災による死者の九〇%以上は津波による溺死だった。誰も経験したことのない災害の現場から戻ってきた記者やカメラマンは、「みんな青ざめた顔で、放心状態だった」と編集局写真部長の毛馬内和夫は語る。

 通信手段のない場所にいた記者の中には、ヒッチハイクを繰り返しながら、数日かけて仙台市に辿り着いた者、徒歩や住民に借りた自転車で帰社した者もいた。報道写真集に掲載される写真は、そのような彼らの手によって撮影された数千枚の中から選ばれた。

「自分が記者たちに言ったように、写真のセレクトも美的だったり情緒的過ぎたりするものを避け、東京ではなく被災地の人々に見ていただくんだ、という視点で行ないました」

 そうして彼らの写真集は作られた。その一冊の発行部数は八月の時点で四五万部を超え、震災以後の東北地方における最大のベストセラーになったのである。

※週刊ポスト2011年9月30日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

不倫報道のあった永野芽郁
《“イケメン俳優が集まるバー”目撃談》田中圭と永野芽郁が酒席で見せた“2人の信頼関係”「酔った2人がじゃれ合いながらバーの玄関を開けて」
NEWSポストセブン
六代目体制は20年を迎え、七代目への関心も高まる。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
山口組がナンバー2の「若頭」を電撃交代で「七代目体制」に波乱 司忍組長から続く「弘道会出身者が枢要ポスト占める状況」への不満にどう対応するか
NEWSポストセブン
母・佳代さんのエッセイ本を絶賛した小室圭さん
小室圭さん、母・佳代さんのエッセイ本を絶賛「お母さんと同じように本を出したい」と自身の作家デビューに意欲を燃やす 
女性セブン
日本館で来場者を迎えるイベントに出席した藤原紀香(時事通信フォト)
《雅子さまを迎えたコンサバなパンツ姿》藤原紀香の万博ファッションは「正統派で完璧すぎる」「あっぱれ。そのまま突き抜けて」とファッションディレクター解説
NEWSポストセブン
国民民主党の平岩征樹衆院議員の不倫が発覚。玉木代表よりも重い“無期限の党員資格停止”に(左・HPより、右・時事通信フォト)
【偽名不倫騒動】下半身スキャンダル相次ぐ国民民主党「フランクで好感を持たれている」新人議員の不倫 即座に玉木代表よりも重い“無期限の党員資格停止”になった理由は
NEWSポストセブン
ライブ配信中に、東京都・高田馬場の路上で刺され亡くなった佐藤愛里さん(22)。事件前後に流れ続けた映像は、犯行の生々しい一幕をとらえていた(友人提供)
《22歳女性ライバー最上あいさん刺殺》「葬式もお別れ会もなく…」友人が語る“事件後の悲劇”「イベントさえなければ、まだ生きていたのかな」
NEWSポストセブン
4月24日発売の『週刊文春』で、“二股交際疑惑”を報じられた女優・永野芽郁
永野芽郁、4年前にインスタ投稿していた「田中圭からもらった黄色い花」の写真…関係者が肝を冷やしていた「近すぎる関係」
NEWSポストセブン
東京高等裁判所
「死刑判決前は食事が喉を通らず」「暴力団員の裁判は誠に恐い」 “冷静沈着”な裁判官の“リアルすぎるお悩み”を告白《知られざる法廷の裏側》
NEWSポストセブン
第一子となる長女が誕生した大谷翔平と真美子さん
《インスタで娘の誕生報告》大谷翔平、過熱するメディアの取材攻勢に待ったをかけるセルフプロデュース力 心理士が指摘する「画像優位性効果」と「3Bの法則」
NEWSポストセブン
永野芽郁
《永野芽郁、田中圭とテキーラの夜》「隣に座って親しげに耳打ち」目撃されていた都内バーでの「仲間飲み」、懸念されていた「近すぎる距離感」
NEWSポストセブン
18年間ワキ毛を生やし続けるグラドル・しーちゃん
「女性のムダ毛処理って必要ですか?」18年間ワキ毛を生やし続けるグラドル・しーちゃん(40)が語った“剃らない選択”のきっかけ
NEWSポストセブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《田中圭に永野芽郁との不倫報道》元タレント妻は失望…“自宅に他の女性を連れ込まれる”衝撃「もっとモテたい、遊びたい」と語った結婚エピソード
NEWSポストセブン