島田紳助が引退し、今、テレビ界の「お笑い」は曲がり角にさしかかっている。特に、昼の「お笑い」番組の視聴率低下が顕著だが、いま視聴者はテレビに何を求めているのか。作家で五感生活研究所の山下柚実氏の視点は、こうだ。
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今、お昼に話題を集めているテレビ番組、TBSの『ひるおび!』。7月の平均視聴率6・3%、7月19日には第2部が9.0%を獲得し、同時間帯民放首位・番組過去最高を記録したとか。
その番組内容をみてみると――。たとえば先週、野田政権が誕生した14日のテーマは「首相の所信表明演説」。演説の内容をぎっしりと細かい文字にしてボード化。ゲストには政治家と政治評論家を呼び、弁護士と三人で、その演説内容を多角的に分析していました。主婦相手の時間帯などとお茶の間をナメていない。本格派です。
一方、同じ日同じ時間帯の『笑っていいとも!』にチャネルを移すと……。お笑い芸人がズラリと並んで悪ふざけ。「美人、イケメンだけどちょっと残念な部分がある素人」を出演させて、プロの芸人たちがいじって内輪ウケ。両者の番組内容が実に対象的でした。
かつて、昼の番組といえば『笑っていいとも!』がダントツ人気。80年代には27.9%と驚異的な視聴率を記録。けれども、最近では5%台も珍しくないそうです。司会のタモリや企画内容の「テンションの低さ」がささやかれていますが、その原因は単なる「マンネリ」ではないはず。
一言でいえば、テレビに対する視聴者のニーズが変化してきているのではないでしょうか。特に、3月の震災を境に、その変化がはっきりと顕在化してきたように思います。「バラエティよりも情報番組を」、「報道の奥にある本質が知りたい」、「明日の日本をどうすべきかを考えたい」。今の視聴者の素直な欲求なのでしょう。
だからといって「笑い」は拒否、というわけではありません。その証拠に、なでしこジャパン・佐々木則監督の「私にも合うでぃ(アウディ)」といったダジャレは好感をもって受け入れられています。実際に、アウディの売り上げはぐんと伸びたそうですから。
つまり、この時代、「ユーモア」は求められていても、「内輪の悪ふざけ」は勘弁してほしい、というのが多くの人の感覚ではないでしょうか。奇しくも「島田紳助の引退」が象徴しているように、テレビ界のお笑いは曲がり角にさしかかっている。
震災後の時代は、『笑っていいとも!』と言われても素朴に笑えるほど脳天気な社会ではなくなっているということ。もし、そのことに制作者が気付いていないとしたら……、それが最大の問題でしょう。
今後の昼番組の変化には注目です。