「なくて七癖」――凡人の我々にとっては当たり前のことかもしれないが、歴史に偉大な足跡を遺した偉人たちも、多様な“トンデモ癖”を持っていた。
文豪・夏目漱石の癖は、遺された原稿を見れば一目瞭然。原稿用紙の余白には短い鼻毛がキレイに一列に並んでいる。執筆に行き詰まると無意識に鼻毛を抜く癖があったのだ。しかも、ご丁寧に、毛根の部分をノリのようにくっつけていた。
版画家の棟方志功はゴッホの名画、『ひまわり』を見て以来、「わだは(俺は)、ゴッホになる」が口癖になった。あまりにも「ゴッホ」「ゴッホ」と連発するので、周囲から「風邪でもひいたのか」とからかわれたという。
他人に迷惑をかけない癖ならまだいいが、昆虫博士のアンリ・ファーブルの癖は洒落にならない。彼は突然黙り込んだと思ったら、いきなりキレるという手に負えない癖があった。教員時代、授業でいきなり怒り出し、教室にあったストーブを蹴り上げた。床一面は火の海となり、生徒を震え上がらせた。
特定の相手と論争を繰り広げる批判癖は、後々まで遺恨を引きずる結果となる。
●文/真山知幸(人物研究家)
※週刊ポスト2011年9月30日号