いまやゲームの主流はコンソールとパッケージソフトから、スマートフォンとソーシャルゲーム(SNS〈ソーシャル・ネットワーキング・サービス〉上でユーザー同士がコミュニケーションをとりながら楽しむオンラインゲーム)に移行している。大前研一氏が、その背景と今後を解説する。
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スマホとソーシャルゲームの普及に伴い、ゲームの楽しみ方は、何時間も何日もかけて攻略する「複雑なものをじっくり」というコアの顧客より、電車に乗っている時やバスを待っている間、あるいは家で暇を持て余している時などに気軽にゲームをして遊ぶ新しい層が爆発的に増えた。
「単純なもので時間潰し」「コツコツと少しずつ作り上げていく」「知らない人と農場を共同経営」などのジャンルが急速に広がっている。この潮流をつかんで成功しているのが、日本でいえば、グリーや「モバゲータウン」を運営するディー・エヌ・エーなどである。
そしてこのソーシャルゲーム業界のチャンピオンが、2007年に創業されたアメリカのZyngaという会社である。『シティビル』『ファームビル』などフェイスブック上のソーシャルゲームで圧倒的なシェアを誇るトップ企業で、未上場ながら時価総額は2兆5000億円に達するとみられている。
こうした変化の影響で、ゲームソフトの開発方法も大転換している。『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』などのパッケージソフトは、PS3など特定のコンソール向けに数百人のスタッフで数年かけて開発していた。一方、ソーシャルゲームは、スマホ向けに少人数・短期間で開発しているものが多い。
同時に開発のプラットフォームも変化している。従来のゲームエンジン(ゲーム開発ツール)は非常に高価で小さなゲームソフト会社は容易に手が出せなかったが、今は数十万円と格安になり、無料で使うこともできる。
たとえば、米ユニティ・テクノロジーズが販売しているゲームエンジン「Unity」を利用すると、プログラミング能力がなくてもプロデュース能力があれば、安価で簡単にゲーム製作が可能になった。Unityの登場によって“試合のルール”が変わり、パソコンがあれば、ほとんど誰でもゲームを作れる時代が到来したのである。
今後はインドやフィリピンなど新興国・途上国の人たちが、続々とUnityでスマホ用のゲームを開発するようになるだろう。なぜなら、仮に自分が開発したゲームを1ドルで販売して1万ダウンロードあれば1万ドル、30%の手数料を取られても7000ドルという彼らの国では得難い大金を手にすることができるからだ。
いずれは新興国・途上国で開発されたゲームが、フェイスブック上で展開されるZyngaなどのプラットフォームを通じて世界を席巻する時代が到来するに違いない。中国ではテンセントQQ、東南アジアではmig33などが中心的なプラットフォームになることも予想される。
※週刊ポスト2011年9月30日号