【書評】『慈雨の音 流転の海 第六部』(宮本輝/新潮社/2205円)
* * *
舞台は1959年の大阪。〈漕いでも漕いでも進まない自転車に乗っているような十年だった。/進まないどころか、漕げば漕ぐほどうしろへ退がるといったありさまだった〉。波乱の50年代を振り返る松坂熊吾。
駐車場経営は軌道に乗り、50歳で授かった息子の伸仁も中学生になるなど、身辺も落ち着いてきた。そんなある日、因縁の男のある報せが届く……。皇太子御成婚や北朝鮮帰国事業に沸いた当時の情景がよみがえる、長編第6作。
※週刊ポスト2011年9月30日号