中国政府の閣僚が昨年末、北朝鮮の最高指導者、金正日総書記と大げんかをし、激しい罵り合いを演じていたことがこのほど分かった。
この閣僚は戴秉国(たい・へいこく)国務委員(副首相級)で、中国外交の実質的なトップだ。
事件は昨年12月9日、戴氏が平壌を訪問し、金総書記と会談中に起こった。会談に同席した外交筋によれば、戴氏が金総書記に北朝鮮の核問題を協議する6か国協議への復帰を迫った際、金総書記は「6か国協議なんて、何の役にも立たない。各国が勝手に意見を述べるだけで、まったく機能していない。開催するだけムダだ」と一蹴。さらに、金総書記は「議長国の中国の調整がまずい。われわれは米国と直接交渉する」と息巻いた。
そのつっけんどんな言い方に戴氏がキレた。
「金総書記、何ですか、その言い方は。われわれは貴国のためを思って、6か国協議への復帰を勧めているのです。その発言を撤回してください」
実は、この会談は昨年11月、北朝鮮による韓国・延坪島(ヨンピョンド)砲撃後、金総書記が外国要人と初めて行なったもので、世界中が会談の内容を注視していた。
会談については、中国国営の新華社電がテーブルをはさんで両者が協議している写真を配信したが、その内容は写真説明程度で、「両者は率直に意見を交換した」と短く伝えたのにとどまっていた。
中国の場合、外交交渉で「率直に意見を交換」という表現は、激しく意見が対立したとき以外、使われることはほとんど無い。このため、チャイナウォッチャーの間では、「戴氏と金総書記の間で激しいやり取りがあった」と観測されていたが、一外務官僚上がりの人物である戴氏が北朝鮮の独裁者で最高権力者である金総書記を罵倒していたとは予想も付かなかったはず。
新華社も、とてもではないが、その内容を伝えるわけにはいかなかったわけだ。
さらに、この報告を受けた中国の最高指導者、胡錦濤国家主席もさすがに表情が青ざめたと伝えられている。
戴氏は外務省出身で次官を経験した後、北朝鮮の朝鮮労働党のカウンターパートに当たる中国共産党対外連絡部部長(大臣クラス)を4年間務め、金総書記とも親しい関係を築き、中国随一の北朝鮮シンパだけに、北朝鮮のことを心配するあまり、金総書記にもついずけずけと直言したというところだろう。
金総書記も、そのような戴氏の気持ちを知っているからこそ、戴氏の発言を許容したといえるが、「他の者だったら、無事に北朝鮮を出ることができたか分からなかっただろう」(北京の外交筋)といわれている。
金総書記は8月下旬、ロシアを訪問し、会談したメドベージェフ大統領に「6か国協議への無条件復帰」を明言しており、戴氏らの説得は結果的に奏効しつつあるといえそうだ。蛇足だが、金総書記がロシアから帰国する際、中国領を通ったが、中国政府を代表して金総書記を出迎え、接遇したのが戴氏だった。両者の関係はすでに修復されたといえそうだ。