「尖閣諸島問題に対する日本側の関心の低さが、中国に付け入る隙を与えている」――1年前、中国漁船衝突事件の映像を「sengoku38」というハンドルネームでYouTubeにアップした一色正春氏はそう嘆く。職を賭した氏の決意にもかかわらず、攻勢を強める中国に対して我が国は有効な対応ができていないというのだ。
* * *
尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件から1年が経ったが、尖閣を含めた領土に関する日本政府や多くの国民の意識は事件以前と「あまり変わっていない」と言わざるを得ない。
少なくとも衝突事件直後は、中国の漁船や漁業監視船などが尖閣諸島周辺の海域に現われるたびにテレビ・新聞が大きく取り上げ、東シナ海における中国との緊張関係がクローズアップされていた。
しかし、今春以降は、東日本大震災の発生もあり、いつの間にか、多くの日本人の頭から「領土」に関する問題が忘れられつつあるのではないだろうか。
新しい首相に野田佳彦氏が選ばれたことにより、今後、領土問題や外交問題が変化することを期待したいとは思う。野田氏の過去の言動を見ると、集団的自衛権に言及、領土問題で中国に対して当たり前のことを言ったり、靖国参拝に対しても常識的なことを言ったりしているので、今までよりはましになると思うが、前政権の閣僚だったことを考慮すると、割り引いて考えなければいけないだろう。
何よりも代表選で、領土問題や外交問題にきちんと言及した候補者が一人もいなかったことは異常である。今まで、党や個人の利益を優先してきた前政権との違いをはっきりとさせるには、最後の置き土産である朝鮮高級学校の無償化を阻止して違いを見せるべきであり、そして秋の例大祭で靖国神社に公式参拝するかどうかが、新首相が信念を貫けるかどうかの試金石となるであろう。
そうした中、目の前の現実は、“震災支援外交”や“パンダ外交”の陰で、中国の船による尖閣周辺などの領海・排他的経済水域(EEZ)への侵入や挑発が、以前と変わらず続いているのだ。
例えば、3月7日と震災発生後の26日の2回にわたり、中国国家海洋局所属のヘリコプター「Z9」が、東シナ海の日中中間線付近で、警戒監視中の海上自衛隊護衛艦に異常接近し、その周囲をぐるりと1周した。4月1日には、やはり東シナ海で中国海監所属の「Y12」プロペラ機が護衛艦に異常接近した。
中でも問題なのが8月24日に、中国の漁業監視船「漁政201」、「漁政31001」の2隻が尖閣諸島に接近し、一時、日本の領海に侵入したことである。何が問題かというと、民間船ではなく政府の船が日本の領海内に侵入してきたということで、中国が一段階攻勢を強めてきた徴候だからである。中国の漁業監視船が尖閣諸島に接近したのは今年に入って7回目だが、領海侵入は今回が初めてである。
しかし、度重なる挑発行為や領海への侵入を受けて、国内で中国にどう対応するかという議論が高まっている様子はない。そして、そうした日本側の関心の低さや、震災によりダメージを負った現状に付け込むかのように、中国側は攻勢を強めてきているのだ。見方を変えれば、これらの事態を呼び込んでいるのは日本政府の対応の弱さと国民の無関心であるとも言える。
※SAPIO2011年10月5日号