「五・七・五」で表現する俳句は、「世界で最も短い文学」といわれる。そんな17文字に青春をかける高校生がいる。
全国屈指の進学校として知られる東京の開成高校俳句部は、「俳句甲子園(全国高等学校俳句選手権大会)」で過去13回で5度の優勝を誇り、“俳句界のPL学園”とも呼ばれる。今年の夏も見事2連覇を飾った。
部員たちの俳句作りには、「現代っ子らしさ」が漂うところが興味深い。
夏休みの終盤に東京・秋川渓谷で行なわれた吟行会では、多くの部員たちが携帯電話を常にいじっていた。それぞれが、「葛の花」「キャンプの声」「通り雨」など、句の題材にする情景を携帯メールにメモがわりに打ち込んでいるのだ。
山口萌人君(2年)がいう。
「今日のような雨の日は、傘を片手にメモができるので便利です。通学中に気づいたことを記録する時にも使います。だって、電車の中で突然メモを取り始めたら、周りから怪しまれるじゃないですか(笑い)。中には俳句専用のメールアドレスを開いている部員もいます」
また、句会では多くの部員が電子辞書を駆使する。ひとつひとつの言葉遣いが正しいかどうかを確認しながら創作するためだという。そんな「デジタル思考」も、作品に“高校生らしさ”を醸し出しているのかもしれない。
それでも、過去の名作や高名な俳人の作品に触れるのも大切な練習だという。
宇野究人君(2年)はこう語る。
「昔の句集を回し読みして、感想文を書くんです。やはり、人生経験の少ない僕たちでは気づかない視点や表現に触れることができるので、とても勉強になります」
顧問の佐藤郁(かおる)教諭もこう語る。
「評価にはさまざまな物差しがあります。俳句甲子園では13人の審査員がいますが、その中にはホトトギス系(伝統俳壇)の方もいれば、現代俳句系の方もいます。いい句は誰が見てもいい句ですが、拮抗している時は審査員の主観に左右されますから、偏っていると評価されにくい。生徒の個性を伸ばしつつ、同時に幅広い句を作れるように指導するのが私の役割です。子供たちの吸収力は凄いですが、年齢を重ねるごとに深まっていく部分もある。高校生活で恋愛を経験していく中で作風が広がる生徒も多い。そうした成長を見るのも楽しいですね」
そこで「彼女はいるの?」と聞くと、それまでは記者の質問にハキハキと答えていた部員たちの口数が少なくなった。
「いませんよォ……。野球みたいに甲子園に出たからモテるというわけにはいかないのが残念です」(宇野君)
「俳句甲子園には共学の高校も多く出場していますが、羨ましいです。でも、男5人だから作れるチームの雰囲気もある。それに、僕はチキンだから、女のコが一緒のチームだと緊張していい句が作れないかも(苦笑)」(山口君)
俳句を離れると「フツーの高校生」の素顔をのぞかせる。記者との雑談で好きな芸能人の話になると、
「Perfumeのあ~ちゃん! これは絶対譲れません」(平井皆人君・2年)
「僕はAKB48のまゆゆ(渡辺麻友)です」(山口君)
と、先ほどまで神妙な顔で俳句を詠んでいた生徒たちの声のトーンが高くなった。記者がポカンとした表情をしていると、宇野君が呆れたような顔で、
「俳句部だから、石川さゆりとか坂本冬美とか答えると思ってたんですか。そんなわけないでしょ!(笑い)」
そうツッコミを入れ、周囲に笑いが巻き起こった。
※週刊ポスト2011年9月30日号