3月11日の東日本大震災を契機に、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)の新築・中古分譲マンション市場には、どのような変化が起きているのか。今回は、2011年5月末までのデータを基に、首都圏のマンション販売戸数・販売価格の動向、そしてマスコミで騒がれている「内陸シフト(マンション開発や購入者ニーズの湾岸エリアから内陸エリアへのシフト)」は本当に起きているのか、東京カンテイの市場調査部主任研究員の井出武氏が解説する。
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まず、マンション価格に関しては、現在のところ新築・中古ともに「下がっていない」というのが、結論だ。新築マンションの価格(平均坪単価)は、むしろ上昇している。これは、震災の影響でマンション供給立地に偏りが生じたため(湾岸エリアの手ごろな価格の新築物件が減少したため)であり、価格は事実上、変化がないと見るべきであろう。
中古マンションの平均坪単価に関しても、震災の前後で大きな変化は生じていない。首都圏の中古マンション価格は今年の1月以降から若干下落傾向にあり、震災後もそのトレンドが続いている。
また、大震災の影響により、マンション開発の中心が湾岸エリアから内陸へシフトするのではないか、との見方もあるが、現在のところ、そうした「内陸シフト」は起きていない。湾岸エリアのマンション開発計画や、着工・分譲予定が相次いで見送られる一方、内陸エリアの計画の多くが予定どおりに進んでいることから、デベロッパー各社がマンション開発を内陸へシフトしたように見えるだけだ。
東京都の湾岸5区(江戸川区、江東区、港区、中央区、品川区)と、内陸5市区(世田谷区、三鷹市、国分寺市、府中市、立川市)に分け、両エリアの新築マンション分譲戸数と中古マンションの流通事例数の割合を比較してみた。
その結果、新築マンションについては、湾岸5区エリアの分譲戸数の割合は震災後も増加傾向にあり、「内陸シフト」は見られない。中古マンションの売事例数の割合も、内陸5市区が約70%、湾岸5区が約30%と、震災前からほとんど変化はない。仮に、震災を機に、マンション購入希望者の間で内陸エリアの物件に対するニーズが急速に高まっているならば、動きの早い中古物件では、内陸エリアの流通事例数の割合が高まるはずだが、現在のところ、そうした動きは見られない。
ただし、これらの傾向は、あくまでも「現在のところ」という注釈がつく。マンション開発には、用地の取得から着工、販売まで、早くて1年、通常は2年以上の期間を要する。大手デベロッパーは都心や湾岸エリアの開発に注力しており、内陸・郊外エリアの用地取得に動いていないところが多いが、郊外のマンション開発を得意とする中堅デベロッパーの中には今後、内陸志向を強めていくケースが出てくるかもしれない。
※マネーポスト2011年9月号