中国企業といえば、これまで低い人件費とあいまいな環境基準による低コスト体質で、高い競争力を誇ってきた。だが、そうした環境に、大きな変化が現れているという。ジャーナリストの富坂聰氏が解説する。
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中国浙江省で起きた高速列車衝突事故で明らかになった“民意”の高まりは、共産党が圧倒的な力をふるってきたこれまでの支配関係に変化をもたらそうとしている。
そのことを象徴する事件が起きたのは、高速鉄道事故と同じ浙江省である。きっかけは今月中旬、大雨により同地で太陽光パネルを製造する工場――ニューヨークにも上場している企業で晶科能源という大きな企業である――から有毒物質が流れ出すという事件だった。
近くを流れる川の魚が大量死したことで住民が怒り、これが猛烈な抗議へと発展したのだが、ここまではよくある話だ。驚きは最終的に当局が取った措置である。なんと工場に閉鎖を命じてしまったのだ。
以前であれば、住民側が抗議をしても企業側はなしのつぶてで、抗議行動が高まり過ぎれば公安が出動して住民を抑え込むのが当たり前であった。とくに今回のように地域の税収にとって大きな存在であれば尚更だ。そのことを考えればまさに隔世の感といった印象を受けるのだ。
住民の抗議で行政が従う「民高政低」は、二年前の広東省のゴミ処理施設の問題で見られたが、その後、高速鉄道事故での反応やその後に起きた大連市での危険物を保管した工場の立ち退き問題など、一つの傾向として定着しつつあるようだ。
これは二つの意味で中国経済に大きな影響を及ぼすと考えられる。一つはコストの問題だ。中国はこれまで環境基準などを無視してきたことで価格競争力を維持してきた面が否めないのだが、今後はそれが厳しく制限されるのである。
そしてもう一つは、これにともない外資の誘致でも同じような配慮が欠かせなくなり、中国に進出する企業にとって従来ほど中国が魅力的な土地ではなくなる点だ。
現在、中国は太陽光パネル生産では世界でトップの座を謳歌しているが、全国的に見れば晶科能源のように環境対策でずさんなことをしている工場が圧倒的に多いはずだ。そしてもし今後、それらの工場すべてに住民の厳しい目が向けられてゆくことになれば、中国企業が持っていた価格競争力という強みにも確実に陰りが訪れることになるだろう。