東日本大震災後、被災者たちのなかには新しい土地へと引っ越す人もいるが、多くは地元での再起を目指して仮設住宅にはいる。
「仮設はプライバシーが守られるし、お風呂も好きなときに使える。やっぱり避難所とは大違いですよ」。多くの人はそう口にするが、他人にはいえない気持ちも抱えている。
自宅を流された阿部喜代美さん(66)は、震災で自衛官との結婚を延期していた娘とともに5月初頭から宮城県石巻市開成で仮設生活を始めた。
「ひとり暮らしをしていた91才のおばも被災し、自宅が流されました。そこで私たちと一緒に住むことになったんですが、実際に2Kの仮設に暮らし始めると、おばと私の生活パターンがまったく違うことに気づいたんです」(阿部さん)
おばは部屋からあまり出ることがなく、家族とは積極的に交流を持たなかった。テレビはおばの部屋にあったが、見たい番組が喜代美さんや娘とは異なり、お互い気疲れしていった。
話し合いの末、わずか1か月で同居を解消し、おばは親類宅に向かった。その後、娘も8月には予定通り結婚して仮設を出たので、阿部さんは一人になった。
「仮設は狭いので、3人のときよりひとりのほうが気ままに使えていいですよ。自分で工夫して収納スペースをつくったりして楽しんでいます。隣の家からは物音が聞こえるし、台風12号のときに降った雨が床下にたまって困っています。でも、家賃がタダなんであまり多くは望めませんよね」(阿部さん)
そう笑って家事にいそしむ阿部さん。だが、仮設の入居期限を過ぎた後のことは不安があるという。
「いつかはここを出て家賃を払う場所に住まないといけない。でも、収入は年金だけ。生活するのがやっとで、どうしたらいいものか…」
※女性セブン2011年9月29日・10月6日号