1990年の放送開始以来、国民的ホームドラマとして多くの人に愛された『渡る世間に鬼ばかり』(TBS系)が、この9月29日に最終回を迎える。
「だって私はホームドラマしかできませんもの」
と、話すのは『渡鬼』のプロデューサー・石井ふく子さん(85)。1961年にTBSに入社以来、あしかけ52年の長きにわたって、日本のドラマを手がけてきた石井さんはいま、お笑いと2時間サスペンスドラマがはびこる日本のテレビ界に、「少しがっかりしている」と話す。
あるとき、戦争を描くドラマで若い助監督に、防空壕にはいるときに何をもってはいったと思うか、と尋ねた。すると、彼はまったく考えが及ばず、「インターネットで探してみます」と答えが返ってきた。
「インターネットになんか書いてないよ、と怒ったんです。私がドラマのロケ地を選ぶときには、自ら出向いていって主人公に歩かせたい場所を探したものですが、いまはネットで調べてそこへ行く。こだわりもなく、これで本当に自分が作りたいドラマができるのかと苦しい気持ちになります」
面倒くさいと思うのは何もテレビ界のことだけではない、いまは家族でさえも面倒くさい。だから会話が成り立たない。仕事や学校から帰っても、「ただいま」もいわなければ「おかえり」もいわない。そうした、家族が「交わらない光景」が日本の家族の間に広がっていることを危惧している。
「家族の中にこだまがない。私はACのCMで有名になった金子みすゞの詩が大好きで、かつてドラマにもしました。おはようといえばおはようという。素敵じゃないですか。しかし、現代の人はああいうこだまは面倒くさいからしないんですね。戦前中後を私はすべて知っていますが、ここ10年の家族の変わり方はものすごい。私は本当に、それを心配しています」
3.11の東日本大震災の後、やはり大切なのは、家族、絆だと再認識された。それはまさに、『渡鬼』で描かれ続けてきたものだった。
※女性セブン2011年9月29日・10月6日号