この数年、各国の重要機関のコンピュータシステムに侵入・攻撃を仕掛けている中国だが、米中間においてはすでに「サイバー戦争」が始まっている。米国は政府をはじめ、軍や公共システムはすべてコンピュータやインターネットに依存している。このシステムにサイバー攻撃すれば、米国の国家機能は混乱の極みとなる。産経新聞ワシントン駐在編集特別委員の古森義久氏がレポートする。
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「サイバー攻撃に関する限り、米中戦争はもう始まりました」
中国人民解放軍の宇宙兵器やミサイル、サイバー攻撃など、高度技術がからむ領域を専門に研究しているヘリテージ財団の首席中国研究員ディーン・チェン氏が語った。
チェン氏はアメリカ国防総省の中国担当部門、そして議会の技術評価局、海軍の分析センターなどでも通算20年近く働き、中国軍のハイテク分野を調査し、分析してきた。
「中国側はサイバー空間の仮想世界でアメリカとの正面対決がすでに開始されたとみなしているのです。グローバルな規模での米中の戦いです。正確には中国がアメリカ側の国防や安保関連のコンピュータ網に全世界規模で攻撃をかけているということです」
サイバーとは周知のようにコンピュータやインターネットを指し、サイバー攻撃とは相手のコンピュータのシステムを襲い、破壊や混乱をもたらす活動のことである。ただしその攻撃にも大別して2種類あり、第一は文字どおり相手のシステムを壊すこと、第二は相手のシステムに侵入して、情報や機密を盗むことだとされる。
米側の最近の公的な報告でも、「2010年4月8日に中国側組織が全世界のインターネット情報の15%を18分間、中国国内のサーバーへとハイジャックすることに成功し、その情報にはアメリカの軍や政府のインターネット交信も大量に含まれていた」と、ショッキングなサイバー攻撃の実例が伝えられた。
チェン氏の指摘するように、米側では中国がそのサイバー攻撃を軍事手段の枢要な一環と位置づけ、その能力を高めていることへの警戒を強めているのだ。だから国防総省の「中国の軍事力報告」でも「中国のサイバー戦争」という用語がすでに頻繁に使われている。この8月24日に公表されたばかりの2011年度の同報告も「中国のサイバー戦争能力は大幅に増強された」と強調していた。
中国はサイバー戦争を非対称戦争の一種とも位置づけている。非対称というのは均衡のとれていない、つまり正面衝突ではない戦争のことで、奇襲とかゲリラ攻撃、背後や側面からの攻撃を意味する。
中国は通常の軍事能力ではまだまだアメリカにはるかに及ばず、正面からの軍事衝突では勝ち目はない。そのため、通常ではない手段での戦い、つまり非対称の戦争を挑むことが必至となる。その手段の一つがサイバー攻撃だというのだ。チェン氏が説明した。
「サイバー版のパールハーバーが起きうるという懸念が米軍関係者の間でひそかに広まっています。相手は中国です。米側の軍や公共のシステムはコンピュータやインターネットに全面依存しているといえます。軍機関や情報機関のネットワークから電気、水道、廃棄物処理、金融機関、航空管制、社会保障などのサービスまでそうです。有事にこうしたシステムへのハッカー攻撃が起きれば、国家機能が麻痺しかねません」
※SAPIO2011年10月5日号