有名人と縁のある食を紹介する「日本全国縁食の旅」。食事情に詳しいライター・編集者の松浦達也氏が語る今回は、ハンカチ王子こと斎藤佑樹投手の出身地、群馬県太田市の「焼きそば」だ。
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今年のペナントレースも、いよいよ終盤戦に突入した。「ハンカチ王子」として世間を湧かせたルーキー、斎藤佑樹投手が所属する北海道日本ハムファイターズもクライマックスシリーズ進出が濃厚となっている。
斎藤投手の出身は群馬県太田市。県内で人口が3番目に多い、北関東地域有数の工業都市である。最近では秋田県横手市、静岡県富士宮市と並び、日本三大焼きそばの町としても知られている。しかしこの「太田焼きそば」は、実に不思議な焼きそばだ。何が不思議かというと、はっきりとした「太田焼きそば」の定義が存在しないのだ。
一部には「極太麺で色の濃いソースが太田焼きそばである」という説もあるが、色が薄いソースを使う店もあれば、麺が細い店もある。具をふんだんに盛り込んだ一皿がウリの店もあれば、具はキャベツのみという老舗もある。もっと言えば鉄板焼きの店だけでなく、和菓子店や喫茶店、はたまた日用品を売っているような店で「太田焼きそば」に出会うこともある。地元民に聞いても「定義がないのが、太田焼きそば」と笑い飛ばされるが、それってアリなんだろうか……。
そもそも、なぜ太田市が焼きそばの街になったのか。その起源は、第二次大戦後の高度成長期にある。太田市は中島飛行機の創業の地で、戦後、富士重工として再スタートを切ると、スバル360の爆発的なヒットにより、同社の労働需要が急増したのだという。
「その当時、秋田の横手など、もともとご当地焼きそばの多い東北各県から太田市への出稼ぎ者が太田に焼きそばを持ち込み、定着していったと言われています」(太田市商業観光課)
「安くてボリュームがある」と工場労働者に受け入れられ、市内には焼きそばを供する店が立ち並ぶように。2002年には市内で焼きそばを供する数十店による、「上州太田焼きそばのれん会」も発足した。
最近では、のれん会の有志数店が「がんばれ佑ちゃん応援焼きそば」なるメニューを立ち上げ、市内の数店で供している。が、これも店によってバラバラ! 例えば「コーヒー&焼そばハウス欅」という店では、ウインナーやゆで卵で背番号18をかたどり、トッピングの海苔を芝生に、コーンを観客に見立てて球場を表現している。
かと思えば、別の店ではハム入りの普通の焼きそばが目の前に置かれる。共通点と言えば具に日本ハムのハムが入っていることくらい……。
ちなみに、市内には焼きそばを供するイタリアンレストランまで存在し、そこで供される「焼きそば」の麺は驚愕のパスタ! 山崎製パンの人気シリーズ「ランチパック」にも「上州太田焼きそば風」として進出するなど、太田焼きそばよ、いったいどこまで自由なのか!
だが2007年以降「B-1グランプリ」に毎年出場しながら、三大焼きそばで唯一優勝経験がなく、最終選考でも一度もベスト10に残ることができていない。佑ちゃんと違ってこちらはまだ「持ってない」!?