「尖閣諸島問題に対する日本側の関心の低さが、中国に付け入る隙を与えている」――1年前、中国漁船衝突事件の映像を「sengoku38」というハンドルネームでYouTubeにアップした一色正春氏はそう嘆く。職を賭した氏の決意にもかかわらず、攻勢を強める中国に対して我が国は有効な対応ができていない。しかし一色氏は、元海上保安官の立場から、「現状の法律の中でも、領土を守る手立てはある」と指摘する。それは、法律を徹底的に守ることによって達成できる。
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外規法の条文には、規制の対象となる範囲について、「本州、北海道、四国、九州及び農林水産省令で定めるその附属の島」(第2条)とある。そして、同法施行規則によると、その島とは、「当分の間、歯舞群島、色丹島、国後島及び択捉島を除いたもの」とされる。つまり尖閣諸島や、竹島の周辺海域が含まれていることが分かる。
そして、外規法第3条では、「日本の国籍を有しない者」などが、「本邦の水域において漁業、水産動植物の採捕、採捕準備行為又は探査を行つてはならない」と定めている。
具体的には、外国漁船が魚を採る行為だけでなく、漁船の甲板に網などの漁具を出している状態(採捕準備)や、魚群探知機を作動させながら航行する状態(探査)をも、規制しているのだ。つまり、実際に採れたとか採れなかったとかということが問題なのではなく、採るそぶりを見せただけでも違反行為と断定して検挙できるのである。
そして、外規法の罰則規定は、公務執行妨害の罰則と比べても、格段に厳しい。前述の3条に違反した場合には、「3年以下の懲役」もしくは「400万円以下の罰金」となる。罰金の最高額は、公務執行妨害の最高50万円に比べれば、8倍にも上る。
それだけでなく、同法第9条には「犯人が所有し、又は所持する漁獲物等、船舶又は漁具その他漁業、水産動植物の採捕、採捕準備行為若しくは探査の用に供される物は、没収することができる」と定められている。
漁船や漁具は非常に高額なため、没収すれば漁業者にとってはかなりの痛手となるし、日本の領海内で操業しようとしただけで取り締まりをされると分かれば、以後の抑止力にもなる。
昨年の衝突事件で逮捕された船長は、自身が常習犯であるだけではなく「自分たちと同じ港の漁船が日本に捕まったことはなかった」と嘯いていたというが、現実に尖閣諸島周辺には、数多くの中国漁船が現われている。
これまで尖閣諸島周辺の日本の領海内では、外国漁船による違法操業に対しては、スピーカーや電光掲示板で領海外への退去を呼び掛け、それでも従わない場合は接舷して乗り移り、説得しながら「お帰り願う」のが通例だった。
しかし、外規法を正しく運用しさえすれば(取り締まる側の数の問題はあるが)、中国漁船を一網打尽にでき、再発防止効果は非常に高いと思われる。摘発は法律上可能なのに、それを行なっていないというだけなのだ。
この他、外国漁船の取り締まりに有効な法規制としては、漁業法に定められた「立入検査忌避罪」がある。これは、漁船において書類などの検査や質問を拒否した場合などに設けられた罰則規定で、違反すると6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科される。
つまり、外規法、漁業法といった既存の法律を適用するだけで、領海に侵入してくる外国漁船に対して(十分ではないものの)一定の取り締まりが可能であり、これらを有効に活用すべきである。
その前提として、なぜこれらの法律が有効に活用されてこなかったのかを検証することが必要だろう。そうしなければ、今後の積極的な活用は望めない。
※SAPIO2011年10月5日号