阪神のスラッガー・金本知憲選手が、高利回りを謳う金融商品に多額の投資をして大損した挙げ句、購入を勧めた金融業者を監禁して「カネ返せ」と恐喝、投資金を貸金だったと偽る公正証書まで作らせた――という疑惑が、今年8月に突如持ち上がった。
このストーリーを語ったのは、「監禁されて無理やり公正証書を作らされた」と訴える金融業者A氏。報じたのは週刊文春と週刊新潮(ともに8月25日号)だった。記事では、金融業者A氏は監禁、恐喝で金本氏を告訴したと語っていた。
金本氏側と阪神球団が「事実無根」と否定したことは、まあ予想通りの展開だったが、最初に奇妙な兆候が見え始めたのは、A氏の告訴が一向に受理される気配がなかったことだ。一体何が事実なのか。
9月末、東京遠征のために都内に宿泊していた金本氏を直撃した。「取材には答えないよう球団からいわれている」と断わりながらも、A氏と言い分の食い違う点について質問をぶつけると、強い口調で“疑惑”を明確に否定した。
――A氏を監禁、恐喝して事実とは違う公正証書を作らせたのか。
金本:全く違う。その日に彼と会ったことは間違いないし、公正証書も作ったが、すべて両者の合意のうえでやったことであり、怒鳴り声ひとつ上げていない。あの人はいつもペン型のICレコーダーをポケットに入れていることを知っていましたから、言葉遣いには気を付けていました。
本当にそんなやり取りがあったというなら、レコーダーに残っているはずですよ。あちらは「6時間監禁された」と主張しているようだが、会っていたのは1時間くらい。見送りまでして穏便に別れたし、そのあと行った焼き肉屋のレシートだって持っています。
――自分から出資して損したのに、後から「貸金だった」といってカネを取り戻そうとしたのではないか。
金本:そんなことしませんよ。彼から勧誘された時の書類や、その時に作成した貸借契約書もあります。彼は僕から受け取ったカネで投資をすると説明していましたが、実際にはそうはせず、懐に入れたのではないかと考えています。だからマズイと思って僕を悪者にしたいのでしょう。騙されたのは僕のほうです。
――ヤクザの名を出して脅したこともないのか。
金本:ありません。
――激しい文面のメールも残っているようだ。
金本:繰り返し連絡しても逃げ回って返事を寄こさなかった時に、乱暴な言葉を使ったこともあったかもしれません。それは反省しますが、それまでに丁寧なメールを何度送っても無視されて、本当に困っていたことも事実です。
――知り合ってすぐの人間に1億3000万円渡したり、数億円の投資話に乗ったりすることは、いくら高額年俸の野球選手といっても理解に苦しむ。なぜそんなに利殖したいのか。
金本:彼の主張を載せた週刊誌では、そんな感じに書かれていましたね。確かに数億円の投資をして大きな損を出しました。みっともない話ですが、それは事実です。会ってすぐA氏を信頼してしまったことも、今となっては軽率だったと思います。
利殖といわれても、A氏と関わった2件と、やはり週刊誌に書かれた「X氏」という人に頼まれて事業資金として数億円を出したことがあるだけ。確かに小さな額ではないけど、年俸を5億円もらっていた時期もあって、信頼できると思った人に頼まれ、よく考えて出した。今は、どちらも自分がうまく利用されただけだとわかり、後悔しています。馬鹿なことをしたといわれれば甘んじて受けますが、人からカネを奪おうとする悪人のように書かれるのは我慢できません。
――金本氏に、自らの主張を証明するために、しかるべき書類などの提示を求めると、「個人マネジメント会社の代表者に説明させるから、そちらで聞いてほしい」と告げられた。
●取材/小泉深&須田慎一郎と本誌取材班
※週刊ポスト2011年10月14日号