20年にわたって日本経済をズタズタにしてきた「デフレ」「円高」「株安」のトリプルパンチ。多くの経営者、政治家、資産家たちがアドバイスを求める「経済の千里眼」こと菅下清廣氏は、その相場の転換点が見えていると分析しつつ、その前に乗り越えねばならない大きな課題と危機を指摘する。
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野田政権では東日本大震災の復興増税は議論されていますが、このタイミングで大増税などあり得ません。デフレ不況を脱するには、逆に大減税と規制緩和が必要です。1980年代のアメリカの経済危機は、レーガン大統領が登場することで脱しました。彼がやったのは大胆な規制緩和と減税でした。いま日本に必要な政策も全く同じです。
では、なぜ政治家や官僚は政策を誤るのか。不況に大増税をやれば経済が底抜けすることは歴史が証明しており、それは経済学部の学生でもわかることです。東大を優秀な成績で卒業した官僚や政治家が知らないはずはない。
実は官僚とは、デフレと不況が大好きな人たちなのです。省益あって国益なしといわれるように、官僚にとって重要なのは省益を守ること。「省の中の省」を自任する財務省の場合、省益とは増税です。集めた税金の分配権限を握るのだから当然です。
でも疑問が残ります。世界の歴史を見れば、減税することで経済は回復し、それによって税収も増えて財政再建を果たした例は山ほどあります。優秀な財務官僚はそれも知っているはずです。なぜそうしないのか。
これはあくまで推測ですが、優秀な彼らは、金儲けがしたいなら官僚ではなくビジネスマンになったでしょう。金より権力のほうが好きだから官僚なのです。そして彼らの権力とは、「税収」ではなく「徴税権」によって支えられています。税収が増えても、徴税権が弱まっては意味がないのです。
だから官僚は減税が嫌いだし、シンプルな税制も嫌いです。もちろん規制緩和は権力を失うから絶対に認められません。
もうひとつの理由は、デフレが官僚を利することです。官僚制度の特徴は、民間より給料の上げ下げが小さく、雇用が安定していることです。好景気になれば民間は給料が増えて経費も使い放題になりますが、官僚はそうはならない。逆に不況になれば民間は減給やリストラに苦しみますが、官僚はそれほど痛みを受けません。むしろ景気を回復させるために政策的なてこ入れが必要になるから、官僚の仕事=権力が増えるのが一般的です。
また、デフレになれば物が安くなります。給料が変わらない官僚にとっては、デフレは実質的に給料が上がったことと同じ効果があり、インフレは反対に賃金カットの意味になる。彼らがデフレ政策を問題視するわけがないのです。
政治家が、その官僚たちを頼って政策を丸投げしているうちは、日本の政策転換は期待できません。民主党はもともと労働組合などの支持が大きく、アンチビジネスのきらいがありますが、ならば自民党政権ならばいいかといえば、そうではない。やはり官僚任せの政治家が多いからです。結局、政治は「誰が何をやるか」で決まります。日本がすべき政策を正しく理解し、それを実行する力があるかどうかです。
※週刊ポスト2011年10月14日号