父・金正日が心血を注いで開発してきた核兵器と弾道ミサイル。息子・正恩への権力継承劇は、その完成をもって行なわれる。今そう推測せざるを得ない情報が飛び交っている。近く北朝鮮で3回目の核実験が行なわれるというのだ。しかも過去2回行なわれた核実験とは異なり、その性能と技術は、格段に向上しているという。軍歴なき大将が手にする「核とミサイル」。6か国協議が膠着する中、危険な開発は秘密裏にそして、着実に進んでいる。
元韓国国防部北朝鮮分析官の高永喆氏がレポートする。
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北朝鮮が3回目の核実験を行なう可能性が高まり、米韓の情報機関が神経を尖らせている。
韓国の情報関係者によれば、過去2回行なわれた場所の周辺では、核実験に向けた垂直・水平坑道の掘削作業がすでに終わっており、坑道の入り口周辺などでは、人や車が今も活発に動き回っているという。
また、9月には、何度も訪朝して北朝鮮の核開発の実態をよく知る米ロスアラモス国立研究所の元所長で、核物理学者のジークフリード・ヘッカー氏が、ウィーンでの講演で、北朝鮮がミサイルに搭載可能な小型核弾頭を開発するための3回目の実験が近く行なわれるだろうと語った。
北朝鮮は過去2006年10月と2009年5月の2回にわたって核実験を行なっている。1回目の核実験は、爆発による地震波の測定から咸鏡北道吉州郡豊渓里の地下核実験施設で実施されたと推測され、米地質研究所(USGS)が観測したマグニチュード(M)は4.2、日本の気象庁の観測ではM4.9であった。この観測された地震波から爆発出力の規模を米国はTNT火薬換算で0.5~5kt、日本では0.5~1.5kt程度ではないかと推測した。
一方、2009年5月の2回目の実験ではUSGSはM4.7を観測、気象庁はM5.3を観測した。実験場所は1回目にほど近い場所とされる。
マグニチュードの数値が0.5違うと放出エネルギーは5倍になると言われる。すなわち、2回目の実験は最初の爆発出力に比べ、5倍程度威力が増したことになる。
2度の実験を失敗と見る専門家もいるが、爆発規模が1回目の5~6倍とした2回目の実験は北朝鮮の目標に達し、成功だったと思われる。
実験を失敗とするのは、北朝鮮の核爆弾が広島に投下されたリトルボーイや、長崎型のファットマンのような大型の原子爆弾と考えるからである。ウラン原子爆弾のリトルボーイは重量4.4t、出力は15kt、プルトニウム原子爆弾のファットマンは重量が4.6tで、その出力は22ktを記録した。それに比して、2回目実験の出力が5~6ktだったため失敗と見られたのであろう。
だが、北朝鮮の核爆弾開発の目標は弾道ミサイルに搭載するための核弾頭である。ミサイル搭載には重量を500~700kgまで縮小しなければならない。
北朝鮮はすでに核弾頭の小型化に成功しているとの情報もある。小型化の基準である1000kgの壁を突破して、ミサイルに搭載できる初歩的な弾頭は作ることができると言われている。
韓国国防部の金寛鎮部長は今年6月13日の国会国防委員会全体会議で「(核実験から)期間も長く、小型化や軽量化に成功した時期だと判断している」と明らかにした。
この小型化した核弾頭の精度をあげるために3回目の核実験を行なう可能性があるというのが、米韓の情報機関および軍部の見方なのである。
小型化の精度をあげるということは、爆発出力を強化することで、核融合反応を速めることだ。核融合させるには重水素と三重水素の混合ガスをタイミングよく注入しなければならず、特殊な技術が必要とされる。
この技術を実用化するまでには何度も実験を繰り返さなければならない。過去2回の実験は核融合技術を高めるためだったと言えよう。
2010年5月、北朝鮮は「独自の核融合技術を開発した」と発表し、同年6月には韓国の核安全技術院が核分裂によって発生する放射性キセノンの大気中の濃度が平時の8倍になったことを明らかにした。そして北朝鮮が水素爆発開発のための可能性を示唆したのである。水素爆発は融合の結果、放出のエネルギー量が多いため大量破壊兵器に用いられることは周知の事実だ。
北朝鮮がこれらの技術と核の精度を高めるためには、今後3回どころか、数回の実験が繰り返されると考えるべきだろう。
※SAPIO2011年10月26日号