8月15日、米インターネット検索最大手のグーグルが、米携帯電話端末メーカーのモトローラ・モビリティを買収すると発表。同社とライバル・米アップルのiPhoneとの競争について、大前研一氏が解説する。
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米インターネット検索最大手のグーグルが、米携帯電話端末メーカーのモトローラ・モビリティを125億ドル(約9500億円)で買収することになった。
これまでグーグルはスマートフォン(多機能携帯電話)向けの基本ソフト(OS)「アンドロイド(Android)」を端末メーカーに無償提供するのみだったが、今後は自前のハードを開発してスマホ事業に本格参入する方針で、アンドロイド勢と米アップルのiPhoneやカナダRIM(リサーチ・イン・モーション)のブラックベリーとの競争が一段と激化するのは間違いない。
今回の買収について、新聞などはモトローラの特許を手中に収める狙いがあると分析していたが、私は最大の目的は自社ブランド端末、すなわち「グーグルフォン」を出すことにあると思う。なぜならiPhoneが成功している理由は、アップルがハードとソフトの両方を手がけ、利用者に便利な機能をすべて実装した端末を出しているからだ。
一方、グーグルは2010年に台湾メーカーへの生産委託で自社ブランド端末を発売したものの、売れ行きが伸びず半年後に販売を終了している。それ以外はアンドロイドOSのみを提供し、ハードはメーカーに任せてきた。
このため現行のアンドロイド端末には、グーグルが開発したオンライン決済用の「グーグルチェックアウト」やフェイスブックに対抗したSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の「グーグルプラス」、地図情報の「グーグルマップ」といった豊富なソフト群はバンドルされていない。
もちろんユーザーがダウンロードすれば利用できるが、グーグルのGmailでさえもアンドロイド端末では強制できない。独禁法の問題があるからだ。これはグーグルとしては髀肉の嘆をかこつ状態なので、モトローラ買収によってアップル同様の“垂直統合態勢”を整え、自社のアプリが第一画面に表示されるグーグルフォンを出して、すべての自社ソフトを第一優先で使ってくれる利用者を獲得しようとしていると考えられる。最初から縛りがあるものを選択した人に対しては、独禁法の問題が発生しないからである。
今回の買収は企業価値に比べて高いものだと思うが、今後のスマホ市場の進化を見据えて先手を打った戦略と考えれば正当化される。
※週刊ポスト2011年10月14日号