横浜ベイスターズの売却先として名前が飛び出したDeNA。「モバゲー」では有名だが、いったいどんな会社なのか。プロ野球団を買収する会社としてふさわしいのか。ノンフィクション・ライターの神田憲行氏が、買収にまつわる「お金の話」を解説する。
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横浜ベイスターズ球団売却の話がまた動き出した。今度の本命は携帯用ゲームサイト運営会社「DeNA」だった。
ゲームをしない人にはピンと来ない会社だが、2010年度の売り上げが1127億円、営業利益560億円の企業規模を誇る。2004年に新規参入したときの楽天の売り上げが455億円、営業利益150億円だったことを考えれば、球団の買い手として「有資格者」である。
加えて、DeNAの2010年度の販促費・広告費が196億円もあることに注目したい。プロ野球団は昭和29年の「職業野球団に対して支出した広告宣伝費の取り扱いについて」という国税庁通達で、球団の赤字補填は親会社の宣伝広告費として損金算入できる優遇措置が取られている。
いってみれば親会社の広告宣伝費が球団を支える「原資」のようなもので、横浜ベイの親会社TBSは毎年20億円程度を補填していた。昨年、売却先として名乗り出た住生活グループが「毎年200億円近い広告宣伝費を使っているのでその範囲でまかなえる」と自信を見せたのも、その背景がある。
DeNAの196億円はこの点でも余裕がある(もっとも2009年度の広告宣伝費は50億円だから、今後も同じ規模で広告宣伝費を使い続ければ、という前提だが)。
一方で、DeNAが赤字球団を買う理由はなんだろう? 知名度向上、事業のシナジー効果などがあるが、私は意外に経営者の欲を満たす、ということではないかと思っている。孫正義氏も三木谷浩史氏も、成功したベンチャーから「一流企業」「日本を代表する企業」と認識されるために、日本に12チームしかないプロ野球団を所有するという「勲章」が欲しかったのではないか。
人気凋落とは言われても、我が国でもっと古く幅広く浸透しているプロスポーツを経営することは、企業の社会的ステータスを上げることに貢献する(逆に言えば、パナソニック等すでに一流企業がプロ野球団をこれから所有する魅力は乏しい)。
しかしこの話がすんなりまとまらないのは、本拠地問題である。球団収入の大きな柱はチケット収入とスポンサー収入(球場の広告看板)、放映権だが、いまどき放映権はあてにならない。しかし球団と横浜スタジアムの管理運営会社である「株式会社 横浜スタジアム」との契約では、スポンサー収入はスタジアム側の総取りで球団には入らない。チケット収入も25%が球場使用料としてスタジアムの取り分になる。これでは黒字転換は難しい。
新しい契約交渉をするのか、移転するのか。来シーズンから参加するには11月30日までにプロ野球実行委員会とオーナー会議の承認が必要だが、間に合うかは微妙だ。