現在の日本は既得権擁護ばかりで遅々として改革が進まないが、かつて数々の改革を打ち出したリーダーと言えば戦国武将・織田信長だ。彼がもし今、生きていたら、何を語るだろうか? 話題の新刊『世界を変えた巨人たち「IF」』(小学館)で、豊富な取材と史料をもとに10人の歴史上の偉人たちとの対話を綴っている国際ジャーナリストの落合信彦氏は、信長とこんな会話ができたのではないかと考える――。
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――戦略家としてもさることながら、殿はさまざまな改革にも力を入れて経済の活性化に大いに貢献なされました。例えばいろいろな規制の撤廃とか道路の拡張、関所の廃止など当時では考えられない大胆なものでしたが。
信長:経済は政治同様人間が作るもので、血が通った生き物なのじゃ。それがわかっていれば余の改革は当然のことであった。例えば当時市場に出入りする商人は名前や数が限られておった。他に参入したくてもできない。いわゆる既得権を持つ者だけが跋扈していたわけじゃ。利権じゃな。
既得権にどっぷりと浸っておる者には危機感や緊張感がない。そういう者どもが市場を支配しておる限りは物や金の流れは沈滞する。そんな市場には活気がないし、発展も望めない。故に余は楽市楽座を作って誰でも参入できるようにしたのだ。
関所を廃止したのも同じ発想からだ。領地を出たり入ったりする者をいちいち検査していたら、まず人手がかかるし金もかかる。その上多くの民は検査を嫌がって出入りを敬遠する。これでは人の流れが小さくなってしまうし、領地内での経済活動を著しく鈍らせる。典型的な負の行政であり、時代遅れもはなはだしい。余は尾張というより日本国の基準で物事を考えていた。関所などにこだわっている時代ではなかったのじゃ。
――改革のおかげで領地領民が潤って殿の考え通りになったわけですが、改革に対する抵抗というようなものはなかったのですか。
信長:いつの時代にも改革に反対する輩はおる。既得権の上にあぐらをかいている連中は変化や改革が一番怖い。だが余はそんな連中が抵抗することなど許さなかった。必要とあらば実力行使も辞さずという心がけはいつも持っておった。時代は常に変わるものだ。それによって改革も必要となる。そうしなければ時代に置いてきぼりをくらうだけじゃよ。
※落合信彦『世界を変えた巨人たち「IF」』(小学館)より