10月、暴力団組員への利益供与などを禁じた暴力団排除条例が全国漏らすことなく実施された。条例施行を前に暴力団との交際を理由に芸能界を引退した島田紳助だが、この背景には何があったのか? ノンフィクション作家の溝口敦氏がレポートする。
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島田紳助の芸能界引退騒動は、単に紳助と山口組系極心連合会・橋本弘文会長との交際だけでなく、付随した問題を数多く浮上させた。
その一つが、吉本興業はなぜ違約金を払ってまで紳助を引退に追いやったかという疑問だ。これに対しては7月25日、米オバマ大統領が署名した大統領令の効力と答えるのが一番正しいはずである。
オバマは日本の「ヤクザ」(別名、暴力団、極道と注書き)、イタリア・ナポリを拠点にする犯罪集団「カモッラ」、メキシコの麻薬組織「ロス・セタス」、旧ソ連圏の犯罪組織「ザ・ブラザーズ・サークル」の4組織を指定し、これら多国籍に展開する犯罪組織は国際的な経済秩序を脅かし、米経済や安全保障に脅威を与えていると指摘、対抗策として米国管轄下にある関係資産を凍結し、米国の団体や個人が取引することを禁じるという大統領令に署名した。
他方、吉本興業は来年創業100周年を迎え、それまでに「世界の吉本」へと羽ばたく青写真を描いている。
すでに去年、上海万博でお笑いフェスタを連続公演したし、米最大手のタレントエージェンシー、CAAと合作し、日本のタレントが出るバラエティー番組を海外に売り出す構えでいる。スポーツマネジメント部門の子会社「よしもとエンターテインメントUSA」も立ち上げ、日米両にらみの活動拠点にもしようとしている。
極心連合会と密着する島田紳助が吉本の主要芸人だと米側に知られれば、吉本のアメリカ戦略、ひいては世界戦略が瓦解する。多少血が出ても、今紳助を斬らなければ、来年の100周年を迎えられないという焦燥感や危機感があったにちがいない。
※SAPIO2011年10月26日号