爆発的に普及するスマートフォン。だが、一方では、駅のホームでスマホユーザーが周囲にぶつかったり、子どもや視覚障害者を蹴飛ばす事故が相次いでいる。もし、スティーブ・ジョブズ氏が健在なら、スマホをどう進化させただろうか? 作家で五感生活研究所の山下柚実氏が考察する。
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米アップルの共同創業者、スティーブ・ジョブズ会長の死去のニュースが世界を駆けめぐりました。
「人類史上最もまれな功績を残した」とオバマ米大統領。「芸術とテクノロジーを両立させたまさに現代の天才だった」と言った孫正義氏は、「数百年後の人々は、彼とレオナルド・ダ・ヴィンチを並び称す」とまで賞賛しました。
現代の偉人と評価する声、声、声。たしかに、パソコンにCGアニメ、「iMac」「iPod」「iPad」を創造してきたその独創力はすごい。
そして、最後の置き土産がスマートフォンの最新機種「iPhone4S」ということなのでしょう。
日本でも爆発的に普及しつつあるスマホですが、一方で大きな問題を生みつつある。NHKの『クローズアップ現代』では、駅のホームでスマホユーザーが周囲にぶつかったり、子どもや視覚障害者を蹴飛ばす事故が相次いでいる、と伝えました。
ぶつかられた人はホームから転落したり、骨折するケースも。「背景はスマートフォンの急速な普及」にあると番組では明言していました。
携帯電話に比べて、スマホによって事故の危険性が高まったのはなぜなのか。小さな画面に視線が集中し、周囲が見えなくなることが主に指摘されていますが、画面の大きさよりも、重要なポイントは「動き」にあるのではないか、と私は思うのです。
タッチ操作一つで情報が上下に流れ、画面が常に動く。動画も走る。テレビも見れる。ゲームに熱中する。
小さなコンピュータと化した携帯電話の中で、情報はたえず更新され、変化していく。私たちの視線は、間断なく繰り返される「変化」に釘付けになってしまうのではないでしょうか。
人の目は、「動き」に引き寄せられます。例えばマラソンのレース。2時間を超える長い時間、ただ「人が走るだけ」の競技を熱心に見続けてしまうのは、人も画面も常に動いているから。足の動きだけでなく、入れ替わるランナー、背景の街路風景、すべてが変わっていく。
人の目は、動きと変化に惹きつけられ、それを追いかけてしまうのです。
では、スマホを産み育てたスティーブ・ジョブズ氏が、スマホによる事故多発のニュースを聞いたら、いったいどう考え、どんな対処をしたでしょう。どんな知恵を出し、アイディアを実現したでしょうか。ぜひ知りたいものです。
実は、彼はコンピュータ技術の革新者であると同時に、若い頃から禅への高い関心を持ち、しばしばスピーチなどで禅の教えを引用してきました。アップル製品のデザインには一貫して、「ムダを省くシンプルさ」がありますが、それも禅から学んだ点だとか。
禅とは、後世に負の遺産を残すことを良しとしない哲学です。思いもかけない「事故」という「負の遺産」を生み出している現状について、故スティーブ・ジョブズ氏は天上からいったい何を思いつつ、眺めているのでしょう。