チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世が政治的に引退したが、その政治的後継者となったのはハーバード大学ロースクール(法科大学院)の上級研究員だったロブサン・センゲ氏(43)だ。亡命チベット政府の新首相に就いたセンゲ氏だが、その月給がわずか400ドルであることが明らかになった。センゲ氏にインタビューしたジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。
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400ドルといえば、日本円に換算して、わずか3万円あまり。その額は、亡命政府が置かれているインド北東部のダラムサラでは高い方だが、インド全体の平均月収は3万ルピー(2009年)と日本円にして約4万5000円だけに、亡命政府の首相とはいえ月給としては、かなり低いといえよう。
しかも首相の職務はハードワーク。まだ就任して2か月しか経っていないということもあって、センゲ氏は連日、インド各地に40以上もある亡命チベット人の居住区を飛び回っているほか、亡命政府にいるときは会議、会議の連続で、さらに世界中の報道機関のインタビューを受けるなど、まさに「席が温まる暇もない」という表現がぴったりなほどの多忙ぶりだ。もちろん土日も関係なく、首相就任以来休みはゼロだという。
そんな待遇をご本人はどう感じているのだろうか。試しに、ちょっと意地悪な質問をぶつけてみた。
「センゲさんはハーバード大学ロースクールの上級研究員という、いわば超エリートだったわけですよね。望みさえすれば、アメリカ中の大学から教授就任の要請や、それこそウォール街の一流企業からも引く手あまたなのではないですか。なぜ、亡命政府の首相になったのですか。いま、後悔しているのではないですか?」
これに対する答えはあっさりしたものだった。
「そう、わたしの月給はたったの400ドル。でも、望んで就いた仕事なので給料なんて関係ない。私はダライ・ラマ14世のため、また虐げられてきたチベット人のために、すべての精力を注ぎ込みたい。そのために、家内や娘にも迷惑をかけるので、アメリカに置いてきたのです。とにかく、私の任期が切れる今後5年間は全力を尽くします」
このように、センゲ氏の口からは、まったく後悔しているような言葉は出てこない。
そこで重ねて質問をしてみた。
「首相の一期5年が終われば、そのあとはどうするのですか。また、アメリカに戻って、首相の経験をステップにして、ハーバードに返り咲くとか、学術界やビジネスの世界で重要なポジションに就くという選択肢もあるのではないですか?」
これに対してセンゲ氏はこう答えた。
「まあ、そういう考えもあるでしょうが、いまはとにかく5年間を走り切るだけです。次のことは、それが終わってから考えます」
センゲ氏は優等生的な答えに終始したが、実際には、亡命政府の首相を5年間務めれば、世界中に多くの人脈を作ることもできるだけに、ちょっと早い気がするものの、5年後にセンゲ氏がどのような道を選ぶのか、極めて興味深いところではある。
ちなみに、センゲ氏は来年初めに、首相として初めて日本を訪問する。彼はこれまで2回来日したことがあり、寿司と味噌汁が好きだそうで、「いまから来日を楽しみにしている」と筆者のインタビューで語っていた。その際、政治家として、どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか、楽しみだ。