日本の民主党政権のリーダーたちと対照的に、国家を危機から救い「政治に対する信頼」を強固なものとした第35代アメリカ大統領のジョン・F・ケネディ。彼がもし暗殺されずに生きていれば、何を語っただろうか? 話題の新刊『世界を変えた巨人たち「IF」』(小学館)で、豊富な取材と史料をもとに10人の歴史上の偉人たちとの対話を綴っている国際ジャーナリストの落合信彦氏は、生きていれば94歳になったケネディとこんな会話ができたのではないかと考える――。
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――もしあなたがダラスで殺されずに生きながらえていたら、その後のアメリカはどうなっていたでしょうか。
ケネディ:そうだね。まず1964年の大統領選挙には大差で勝っていただろう。なにしろ相手は、ハノイに原爆を落とせと繰り返していた、過激的なゴールドウォーター上院議員だったからね。そして2期目には包括的核実験停止にもっていけたし、米ソ関係はより深く、より緊密になっていただろう。そしてベトナムは、過去のものとなっていたはずだった。そのような状態になっていたらボビー(※注:ロバート・ケネディ元米司法長官。JFKの弟)は1968年の大統領選挙に出る必要はなかったし、殺されることもなかった。
――どういう意味でしょうか?
ケネディ:彼はよく言っていた。自分は、大統領職には興味はない。ケネディ家からの大統領はジャック(ジョンの通称のひとつ)一人でたくさんだ、と。だが運命は厳しかった。私が死んでベトナム戦争はエスカレートし、アメリカを真っ二つに割ってしまった。
麻薬、貧困、帰還兵士たちのホームレス、黒人対白人のいがみ合い、戦争に反対する若者たちのフラストレーション。当時、上院議員だったボビーはこの状況、崩壊しつつあるアメリカを、毎日目の当たりにした。そして焦った。なんとかベトナム戦争を止めるしかない。しかし、上院議員としてできることには限界がある。ならば大統領になる以外ない。私が殺されなかったら、彼は今でも生きていただろう。
※落合信彦『世界を変えた巨人たち「IF」』(小学館)より