北朝鮮の金王朝の“三代目”が公式に登場してから1年が過ぎた。度重なるテロを起こし、拉致工作を仕掛けてきたこの国の後継者の実像を、我々は知っておかなければならない。あらためて「人間・金正恩」に迫ってみた。
でっぷりとした大柄な体格。両脇を短く刈り上げ、ポマードで固めたヘアスタイル。公の場に出る時は、眉を整え、時代がかった黒っぽい詰め襟の人民服を着用する。
体型だけでなく、髪型・表情・服装も、故・金日成を彷彿とさせる。「建国の父」金日成に似せることで、金正恩が「正統な後継者」であることをアピールする目的があるとされるが、そのために複数回、整形手術を行なったという証言もある。
1983年1月8日生まれの28歳。だが、この生年は、北朝鮮国内では「1982年」に改められているとされる。金日成生誕100周年、金正日生誕70周年を迎える2012年にキリが良い30歳となるようにするためだ。
金正恩の生年月日を世界で初めて明かしたのは「金正日の専属料理人」だったことで知られ、金正哲・正恩兄弟の遊び相手を務めたこともある藤本健二氏だ。
「私は単に83年という数字だけでなく干支で覚えていた。正恩大将は私と同じ亥年だったから、間違えようがない」
旧暦の干支ではないかとする説もあるが、藤本氏が北朝鮮にいた当時は新暦が一般的だったから亥年=1983年生まれは揺るがない。
金正日の三男として、高英姫との間に生まれ、実兄は金正哲、実妹に金汝静がいる。出生地については諸説あり、明らかにされていない。
10代でスイスに留学し、英語やドイツ語に堪能。ジャッキー・チェンや「007」シリーズの映画を好み、バスケットボールが趣味だという。
「2人の“王子”がバスケットボールを始めたのは、正恩大将がスイスに留学する少し前。招待所の職員や喜び組のメンバー、警備担当の軍人たちとチームに分かれ、招待所の体育館などで試合をするようになった。2人ともすぐにバスケの魅力に取りつかれ、正恩大将などは食事が終わると5分も経たないうちにバスケをしに行こうとして、高英姫夫人からよく叱られていた。また、高英姫夫人によると、スイスではよくスキー場にも出かけ、スノーボードが上手かったという」(藤本氏)
金正恩は藤本氏が作った寿司がお気に入りで、特にマグロの赤身が好きでよく注文していたという。他には中華料理やハンバーガー、鰻丼なども好んでよく食べていた。
また、10代半ばから酒を飲み、煙草を吸い、金正日から「若いうちから吸うと背が伸びないぞ」と注意されながらも、外国製のイヴ・サンローランを吸っていた藤本氏のところに来ては、“もらい煙草”をしていたという。
※SAPIO2011年10月26日号