民主党政権下で一度は建設中止が宣言された八ッ場ダムだが、野田政権になって建設再開に向けて大きく動き出している。本誌は同ダム建設を示す国交省極秘資料を入手した。その資料は、総事業費4600億円の使途内訳だ。
それによれば巨大ダムの工事費は808億円。全体の20%未満に過ぎず、最大の出費は、「用地費及び補償費」の1236億円(補償対象は470世帯)だ。
補償金がこれほど高くなる理由は、もう一つの極秘資料「八ッ場ダム建設に伴う補償基準」を見るとよくわかる。
これは水没地の宅地や水田、畑の買い取り単価から、庭の樹木や草花まで種類や太さによって補償額を詳細に定めた文書だ。一昨年の国会で衆院国土交通委員会が政府に文書の提出を求めたが、時の前原国交相が出した補償基準は金額部分がすべて黒塗りにされていた。
この資料によると、1等級の宅地は1平方メートル=7万4300円。長野原町の公示地価は住宅地の最高額で1平方メートル=1万4600円だから、国は公示地価の5倍で買い取っている。ちなみに、この買い取り価格は県庁所在地の前橋市内の住宅地並み。何と、この山奥の土地は「群馬で最も高い宅地」なのだ。
田(1等級は1平方メートル=1万9400円)、畑(同1万8800円)の高さはもっと異常だ。公示地価が算定されない農地を相続地価(財産評価基準)で計算すると、水没地区の田は最高1平方メートル=335円、畑は同181円。実際の取引価格はもう少し高く、「このあたりの農地はせいぜい1坪(3.3平方メートル)2000円」(地元農家)というが、それでも30倍以上の査定である。
国交省が山奥の土地を“土一升に金一升”に化けさせたのだ。
それでも2年前の建設中止宣言の時点では、ダム反対派の住民など約100世帯が売却に同意していなかった。
ところが、この2年間で一変したという。反対派住民の話。
「民主党議員の関係者が、『事業は中止になる』と触れ回ったから、駆け込みで補償金を申請する人が増えた。自分だけもらえなくなると心配になったんじゃねぇべか」
国交省にすれば、民主党が建設中止を言い出したおかげで足かけ40年以上の史上最大の「官製地上げ」が一気に進んだわけである。しかも、その間に橋や関連道路は順調に完成しており、いつでもダム本体工事に着工できるところまできた。
※週刊ポスト2011年10月21日号