ライフ

一年間同時刻の自分を観察した「自分ストーカー」の書が登場

【書評】『三時のわたし』(浅生ハルミン著/本の雑誌社/1680円)
【評者】嵐山光三郎(作家)

* * *
著者は売れっ子のイラストレーターで、エッセイに抜群の冴えがある。瞳がきらりとうるむ長身の麗人で、猫と暮らしている。こけしが好きでヘアスタイルもコケシ型である。古本に造詣が深い。

著書『私は猫ストーカー』が映画化されて、一年以上のロングランとなった。モッカ躍進中で、これからドンドン出てくる要注目の才媛だが、この本では二〇一〇年の一月一日より十二月三十一日までの一年間、毎日午後三時になにをしていたかをイラストと文章でつづった。つまり「自分ストーカー」の告白的一年伝。

お正月は実家のコタツにもぐりこんでイラストの下描きをして、四日には東京へ戻って、うどんを茹でて仕事はじめ。胃カメラを飲む以外、大した事件もなく、タンタンと時間がすぎていく。

亡くなった古本雑誌「彷書月刊」の田村治芳編集長がたびたび出てきて泣かせます。いろんな人が実名で登場し、日記を盗み読むような好奇心がわき、読みはじめると「午後三時以外は、だれとなにをしていたのか」とセンサクして、ハルミンストーカーになってしまう。とくに実名で出てこないKちゃんが気になる。

フシギな吸引力があって、日々仕事に追われている「謎の女」が、あっけらかんとしつつも、世間というバケモノにどう対応していくか、がスリリング。

つまりは自分の観察で、自分を実験している。しかし、かつての私小説家のような淫乱な告白があるわけではない。

仕事をしながら押し入れの中を掃除して、「スリッパで殴りつけてくるおばあさん」を思い出すシーンがいい。十一月二十一日の「自分で自分を消す女」のイラストがせつなく、三日連続して自分の姿の下半分を消している。

なにがあったんだろうか。と読者を心配させる手管は並のものではない。筆者もまたバケモノ化していく。イラストで日記を批評し、挑発する。イラストと日記が格闘し、「なめんなよ」とドスをきかすところが力技である。

※週刊ポスト2011年10月21日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

主張が食い違う折田楓社長と斎藤元彦知事(時事通信フォト)
《慶應SFC時代の “一軍女子”素顔》折田楓氏がPR会社を創業するに至った背景「女子アナ友人とプリクラ撮影」「マスコミ志望だった」
NEWSポストセブン
元プロバスケ選手の真美子夫人と交わした自然なグータッチに、アスリート夫妻らしくて素敵という声が殺到した(写真/ロサンゼルス・ドジャース公式Xより)
大谷翔平、MVP獲得で真美子夫人と歓喜のグータッチ 受賞日は“いい夫婦の日”で喜びも倍増
女性セブン
加古川
【獄中肉声・独占入手】加古川女児殺害事件で再逮捕の勝田州彦容疑者「ケータイをいじりながら、一般人のフリをして歩いて」「犯行後には着替えを用意」と明かしていた“手口”
NEWSポストセブン
紅白の
《スケジュールは空けてある》目玉候補に次々と断られる紅白歌合戦、隠し玉に近藤真彦が急浮上 中森明菜と“禁断”の共演はあるのか
女性セブン
騒動の中心になったイギリス人女性(SNSより)
《次は高校の卒業旅行に突撃》「1年間で600人と寝た」オーストラリア人女性(26)が“強制送還”された後にぶちあげた新計画に騒然
NEWSポストセブン
折田氏(本人のinstagramより)と斎藤知事(時事通信)
《折田楓社長のPR会社》「コンペで5年連続優勝」の広島市は「絶対に出来レースではありません」と回答 斎藤知事の仕事だけ「ボランティア」に高まる違和感
NEWSポストセブン
中井貴一
中井貴一、好調『ザ・トラベルナース』の相棒・岡田将生の結婚に手を叩いて大喜び、プライベートでゴルフに行くほどの仲の良さ 撮影時には適度な緊張感も
女性セブン
折田楓氏(本人のinstagramより)
《バーキン、ヴィトンのバッグで話題》PR会社社長・折田楓氏(32)の「愛用のセットアップが品切れ」にメーカーが答えた「意外な回答」
NEWSポストセブン
小沢一郎・衆院議員の目には石破政権がどう映っているのか(本誌撮影)
【小沢一郎氏インタビュー】自民党幹部に伝えた石破政権の宿命「連立をきちんと組まない不安定な政権では有権者に迷惑、短命に終わる」
週刊ポスト
東北楽天イーグルスを退団することを電撃発表し
《楽天退団・田中将大の移籍先を握る》沈黙の年上妻・里田まいの本心「数年前から東京に拠点」自身のブランドも立ち上げ
NEWSポストセブン
妻ではない女性とデートが目撃された岸部一徳
《ショートカット美女とお泊まり》岸部一徳「妻ではない女性」との関係を直撃 語っていた“達観した人生観”「年取れば男も女も皆同じ顔になる」
NEWSポストセブン
再ブレイクを目指すいしだ壱成
《いしだ壱成・独占インタビュー》ダウンタウン・松本人志の“言葉”に涙を流して決意した「役者」での再起
NEWSポストセブン