暴力団排除条例が施行されても、角界と暴力団の関係は簡単には断ち切れない。角界とヤクザ、両者がここまで密な関係を保つ背景には、当然双方に利害の一致があるからだ。簡単にいえば、親方や力士は金銭的、物質的な様々な利益供与を受け、ヤクザは大相撲の社会的信用を利用する。
例えば、都内に部屋を興したある元関脇のX親方は、某組と密接な関係にある産廃業者に建物の解体から新部屋ビル建設、資金の調達まで、格安で請け負ってもらう代わりに、この業者の相撲協会への食い込みに協力したといわれている。引退力士の再就職先を斡旋してもらうことも多い。
「角界に長く残れるのは入門者の2~3割程度。あとは廃業するしかないが、少なくない元力士がヤミ金融や、飲食店のスタッフといった形で、暴力団関係者が経営する会社に就職を世話してもらってきた歴史がある」(別の協会関係者)
ある元親方はこういう。
「入門生を紹介してもらう場合もあります。暴力団関係者なら暴走族上がりなど、荒っぽく体格のいい若者を多数知っており、即戦力になりやすい。元大関のYがその例です。入門希望者が激減している中、見込みのある新人を喉から手が出るほど欲しいのは、どの部屋も同じです。
元関脇のZ親方が暴力団関係者の息子を入門させたのも、部屋を強くするためだった。それに、ひとたび部屋との関係ができれば、食料の差し入れや地方場所での激励会、打ち上げなどでの人集めなど、非常に細かい面にも配慮してくれる」
暴力団の側としては、タニマチとして人気力士を同伴すれば、出入りの飲食店をはじめ、周辺に信用ができ、商談にも有利になる。八百長事件で土俵の信用は落ちたとはいえ、特に地方での相撲人気は、まだまだ健在だ。
「関取でなくても野球賭博などで食い物にできる。利用価値は幅広い」(暴力団関係者)
特に地方巡業では癒着が罷り通ってきた。
「出羽海(元横綱・佐田の山)理事長時代、協会は巡業を自主興行に切り替え、暴力団追放を目指しましたが、親方衆の猛反対にあって売り興行に戻した経緯がある」(前出の元親方)
暴力団を排除しようとした結果、これまでチケットの販売や警備などで興行を支えてきた暴力団関係者からの苦情が相次いだというのだ。地元ヤクザの縄張り問題を避けるために巡業会場を公営の会場に移したところ、チケットは売れ残り、まともに開催できなかったという話もある。
「警察に協力してきっぱり手を切ると宣言してはいるものの、今後に頭を悩ませている親方も多い。本場所の正面入り口では監視カメラが回り、警察官が立ってはいても、通用門では未だに暴力団関係者の木戸御免(顔パス)が通用しているのが現実です」(相撲ジャーナリスト)
どっぷりと浸かった関係から脱け出すのはかなり難しそうである。
※週刊ポスト2011年10月21日号